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Christopher Cross – Christopher Cross 完全レビュー|グラミー5冠の伝説的デビュー作(1979)

Christopher Cross デビュー作 レビュー
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1979年12月、Christopher Cross は同名のデビュー・アルバムを Warner Bros. からリリースした。テキサス出身、当時28歳の無名の SSW が、ハリウッドの大物 Michael Omartian をプロデューサーに迎え、Don Henley(Eagles)/Michael McDonald(Doobie Brothers)/JD Souther らをコーラスに招いて作り上げた本作は、AOR 史上稀に見る商業的成功を収めた。”Sailing” “Ride Like the Wind” “Never Be the Same” の3つのトップ10シングルを輩出し、Billboard 200 で6位、グラミー賞では Album of the Year・Record of the Year・Song of the Year・Best New Artist の4大部門を史上初めて単一作品で制覇。AOR がメインストリームの頂点に立った瞬間を象徴する1枚である。

Christopher Cross - Sailing (Official Music Video)
目次

このアルバムを聴くべき3つの理由

  • “Sailing” の浮遊感あるコーラス。AOR を語るうえで欠かせない “海と空” の音響イメージはこの曲が定義した
  • Michael Omartian のプロダクションが定めた、80年代AORの音響基準(リバーブ、コーラス・ボーカル、フローティング・ベース)
  • グラミー4大部門制覇——AOR が単なる商業ジャンルを超えて批評的にも認められた決定的な証拠

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背景:テキサス出身の無名 SSW

Christopher Geppert(本名)は1951年テキサス州サンアントニオ生まれ。70年代前半からテキサスでバンド活動をしていたが、目立った成功はなく、20代後半まで地元のクラブ・ミュージシャンとして埋もれていた。1978年、Warner Bros. の A&R 担当 Russ Titelman が彼のデモを聴いて契約。プロデュースには、Steely Dan の『Aja』『Gaucho』にも参加していた鍵盤奏者/プロデューサー Michael Omartian を起用した。

Omartian はロサンゼルスのトップ・セッションマンを総動員。Larry Carlton、Lee Ritenour、Don Henley、Michael McDonald、JD Souther、Nicolette Larson……当時の AOR/西海岸ロック界の主要人物が、無名の Cross のデビュー作のためにスタジオに集まった。この贅沢なメンバーが、Christopher Cross の独特の浮遊感あるメロディと、ハイトーンで儚いヴォーカルを、完璧な音響パッケージに仕上げた。

全曲レビュー

1. Say You’ll Be Mine(3:25)

軽快なシャッフルでアルバムを開ける。Don Henley のコーラスが既に聴こえる、AOR の “家族写真” のような1曲。

2. I Really Don’t Know Anymore(4:20)

Cross 自身のメロディの “切なさ” が前面に出るバラード寄り曲。Michael McDonald のコーラスがサビで重なる瞬間の浮遊感は、本作中屈指。

3. Spinning(3:50)

Larry Carlton のクリーンなオブリガートが効いた中庸の楽曲。Cross のハイトーン・ヴォーカルが最も伸びやかに広がる。

4. Never Be the Same(5:15)★

第2弾シングル。Billboard 15位。失恋を歌った繊細なバラードで、Cross のヴォーカル表現の核心が詰まっている。”I never wanted to be / The kind of guy that I am tonight” のフレージングは、AOR のバラード語彙を一つ更新した。

5. Poor Shirley(3:43)

シャッフルのリズムに乗った軽快な物語ソング。Michael Omartian のクラビネットが終始リズムを刻む。

6. Ride Like the Wind(4:30)★ ティアA

先行シングル。Billboard 2位の大ヒット。Don Henley のあの “Ride, like the wind” のコーラスは、Eagles 史でも特に印象的な客演の一つ。Larry Carlton のソロも珠玉。逃亡者の物語を、AOR の語彙でドラマティックに描く——Cross の作詞作曲家としての懐の深さを示す代表作である。

7. The Light Is On(4:43)

本作中もっとも長尺な曲のひとつ。Omartian のシンセが前景化し、AOR とプログレッシブ・ロックの境界線を撫でるような展開。

8. Sailing(4:14)★ ティアA

本作の——そして Christopher Cross のキャリア全体の——最も重要な1曲。Billboard Hot 100 で1位。グラミー賞 Record of the Year・Song of the Year を制覇。”It’s not far down to paradise, at least it’s not for me…” と始まる Cross のヴォーカル、Andrew Gold のアコースティック・ギター、Larry Carlton のクラシック・ギター、そして Omartian のシンセ・パッド——すべてが “海と空” の音響を完璧に立ち上げる。

AOR を一曲で説明しろと言われたら、Boz Scaggs “Lowdown” と並んでこの “Sailing” を挙げる人は多い。3分台に詰まった “浮遊感” の極北。

9. Minstrel Gigolo(5:23)

クロージング。Cross 流のジャズ寄りのコード進行で、本作の中で最もアコースティックな質感を持つ曲。アルバムを静かに閉じる絶妙な配置。

参加メンバー

  • Vocals/Guitar: Christopher Cross
  • Keyboards: Michael Omartian, Rob Meurer
  • Drums: Andy Salmon, Jeff Porcaro(一部)
  • Bass: Andy Salmon, Lenny Castro
  • Guitar: Larry Carlton, Lee Ritenour, Andrew Gold
  • Backing Vocals: Don Henley, Michael McDonald, JD Souther, Nicolette Larson, Eric Johnson
  • Producer: Michael Omartian

Eric Johnson(後に「Cliffs of Dover」でグラミー受賞のテキサス出身ギタリスト)が、Cross の同郷の縁でコーラスとして参加しているのは興味深い。AOR の “家族関係” がこのアルバムでも如実に表れている。

グラミー史を塗り替えた1980年

1981年2月のグラミー賞授賞式で、Christopher Cross は新人ながら主要4部門(Album of the Year, Record of the Year, Song of the Year, Best New Artist)を一夜で制覇した。これは新人がこの4部門すべてを獲得した史上初の出来事である。”アーサーのテーマ”(Arthur’s Theme, 1981)でさらにアカデミー賞 Best Original Song も獲得し、Cross は一気にスター街道を駆け上がった。

1979年の Doobie Brothers『Minute By Minute』のグラミー4部門と、1980年の本作のグラミー4部門制覇——この2年間で AOR は批評的にも商業的にも完全な絶頂を迎えた。

このアルバムの位置付け

  • 1979: Christopher Cross(本作、デビュー作で頂点)
  • 1981: “Arthur’s Theme”(アカデミー賞 Best Original Song)
  • 1983: Another Page(”Think of Laura” 収録)
  • 1985: Every Turn of the World(MTV 時代への適応に苦戦)

Cross は本作で AOR の頂点を極めた直後に、MTV 時代到来でルックス重視の時代の変化に翻弄されることになる。”デビュー作が頂点” という稀有なキャリア・パターンを描いた人物だが、本作の完成度は時代を超えて聴き継がれている。

私的な感想——”Sailing” の浮遊感

“Sailing” は、僕にとって AOR の “海と空” の音響を完璧に体現した1曲である。深夜のカーラジオで初めて流れてきたあの瞬間——どこの誰の曲かも分からなかったが、3分間ずっと耳が離せなかった記憶がいまも鮮明に残っている。

Christopher Cross のヴォーカルは儚い。技巧的に上手いわけではない。しかし、そのハイトーンが Omartian の構築した音響パッケージの上に乗ったとき、誰にも真似できない “浮遊感” が生まれる。AOR の本質は、技巧の総和ではなく、こうした “全体の質感” にこそある——本作はそれを毎回新しく教えてくれる。

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