「Broken Wings」は、Richard Page の自宅で20分ほどのうちに出来上がった曲だという。ドラムマシンを回し、ベースラインを弾き始めたら、気づいたときには曲が終わっていた——Page 本人がそう語っている。ところがこの曲は、1985年6月6日にシングルとして世に出てから12〜13週ものあいだ、Billboard Hot 100 に入りもしなかった。
1位に届いたのは同年12月7日付。書くのに20分、頂点までは半年。Mr. Mister の2作目『Welcome to the Real World』(1985年6月20日、RCA)は、この速さと遅さのねじれを軸に読むと、違う顔を見せる。
続くシングル「Kyrie」は、まったく逆の速度で駆け上がった。ふたつの1位曲が正反対の登り方をしたアルバム——それが本作である。
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発売から12週、チャートに入らなかった
「Broken Wings」の作詞は Page の従兄弟 John Lang で、着想の元は Kahlil Gibran の小説『Broken Wings』だった。Page 自身は当初、この曲をファースト・シングルにすることに反対していた。売れる曲だと思えなかったからだ(別のインタビューでは1時間ほどで仕上げたとも語っている。いずれにせよ短い)。押し切ったのは RCA とマネージャーだった。
シングル・ヴァージョンには小さな細工がある。アルバム版は5分40秒を超えており、ラジオ向けに短いエディットを作った。それでも長いと思われるのを避けるため、盤面の表記を4分30秒前後にしておいた、と Page は明かしている。放送局が気づかないことを期待しての表記である。
曲が最初に動いたのは Minneapolis と Denver のローカル局で、9月28日付の週には Billboard 報告局で最も多く追加された曲の一つになる。1位に到達した12月7日付の週、Chicago Tribune のチャート欄は「番狂わせで『Broken Wings』が頂点へ」と書いた。前は Phil Collins と Marilyn Martin「Separate Lives」、2週ののち Lionel Richie「Say You, Say Me」に譲った。
その前に、売れなかった3枚のアルバムがある
Page と Steve George は Phoenix の高校時代からの友人で、1977年には Andy Gibb のバック・バンドにいた。年末に録ったデモが元 Blood, Sweat & Tears の Bobby Colomby の目に留まり、Pages として Epic と契約する。1978年『Pages』、1979年『Future Street』、Capitol に移籍し Jay Graydon をプロデューサーに迎えた1981年の『Pages』——3枚ともアルバム・チャートに入らず、「I Do Believe in You」の Hot 100 84位が最高成績だった。
Graydon の仕事としては Airplay『Airplay』(1980)が同じ時期にあたる。Page と George はその後、David Foster や Quincy Jones のセッションでバック・ヴォーカルを務めた。裏方として重宝された二人が固定メンバーのバンドを作ろうと決めたのが1982年。Steve Farris(ギター)と Pat Mastelotto(ドラムス)が加わり、Mr. Mister になる。
1984年3月の1作目『I Wear the Face』は Billboard 200 で170位止まり、シングル「Hunters of the Night」は Hot 100 で57位。通算5枚目でようやく届いた頂点が本作だと思えば、「Broken Wings」の半年など短い。
クレジットに現れる5人目
作曲クレジットは全曲が Page / George / Lang の3名を基本にしている。Lang は楽器を弾けず、本人いわく音痴だったが、Pages 時代から専属の作詞家だった。ステージに立たない従兄弟が「5人目」として言葉を引き受ける構造は、Mr. Mister の全アルバムに共通する。
一方で本作からは Farris と Mastelotto も共作者に入り始める。「Black/White」「Uniform of Youth」「Run to Her」は両者、「Don’t Slow Down」「Into My Own Hands」とタイトル曲は Farris、「Is It Love」は Mastelotto の名がある。Pages が二人組にスタジオ・ミュージシャンを付けた形だったのに対し、Mr. Mister は4人が曲を持ち寄るバンドとして機能していた。
プロデュースはバンド自身と Paul DeVilliers の共同名義。DeVilliers はエンジニアも兼ね、録音は1984年10月から1985年4月にかけて行われた。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| リリース | 1985年6月20日 / RCA Records |
| 録音 | 1984年10月〜1985年4月(「Broken Wings」は1984年11月) |
| プロデュース | Mr. Mister, Paul DeVilliers |
| ミックス | Mick Guzauski, Mike Shipley |
| バンド | Richard Page (vo, b) / Steve George (key, vo) / Steve Farris (g) / Pat Mastelotto (ds) |
| 作詞 | John Lang(全曲に参加、Page の従兄弟) |
「Kyrie」は逆に、いきなり61位から始まった
2枚目のシングル「Kyrie」は1985年のクリスマス前後に発売され、Hot 100 に初登場61位で入った。発売1週間で Billboard に報告する CHR 局の約半数がオンエアし、翌週には11ランク上昇、1986年1月25日付の週には219局中213局で放送されていた。当時のどの曲よりも多い。「Broken Wings」が3か月かけて入口を探した同じチャートに、この曲は最初から全開で入ってきた。
曲は Adam Ant のツアー同行中に Page と George が作り、詞は Lang。タイトルはギリシャ語の典礼句「Kýrie, eléison(主よ、憐れみたまえ)」から取られている。Page は当初、キリスト教的なテキストを歌うことに懐疑的だった。「宗教的な声明」をするつもりはなかったからだ。それでも Lang に説得されて録音した、と本人は語っている。
結果として「Kyrie」は1986年3月1日付と8日付の2週にわたり Hot 100 の1位、Top Rock Tracks でも1週1位を獲得した。前は Whitney Houston「How Will I Know」、後は Starship「Sara」である。
1986年3月1日——RCA が10年待った1週間
「Kyrie」が1位になったその週、『Welcome to the Real World』も Billboard 200 の1位に立った。Sade『Promise』の2週の首位を引き継ぎ、翌週には Whitney Houston のデビュー作に明け渡している。首位はこの1週だけ。しかし RCA にとっては、1975年11月の Jefferson Starship『Red Octopus』以来、10年以上ぶりのアルバム・チャート1位だった。Billboard 誌の「Chart Beat」欄がそう書いている。
RIAA のプラチナ認定は首位に先立つ1986年1月16日。カナダでは3×プラチナ、イギリスではゴールド。グラミーでは「Broken Wings」が1986年の Best Pop Performance by a Duo or Group with Vocal にノミネートされた。受賞したのは USA for Africa「We Are the World」だった。
| 楽曲 / 作品 | Hot 100 | Rock / AC | 備考 |
|---|---|---|---|
| 『Welcome to the Real World』 | Billboard 200 1位(1986年3月1日付、1週) | — | RIAA プラチナ(1986年1月16日)/ 年間61位 |
| Broken Wings | 1位(1985年12月7日・14日付) | Mainstream Rock 4位 / AC 1位 | 発売後12〜13週は圏外 / UK 8位 |
| Kyrie | 1位(1986年3月1日・8日付) | Top Rock Tracks 1位 | 初登場61位 / UK・豪 11位 |
| Is It Love | 8位(1986年6月) | Mainstream Rock 17位 | 映画『Stakeout』(1987)エンド・クレジット |
| Black/White | — | — | 4枚目のシングル(1986年7月) |
ふたつの1位曲のあいだにある8曲
全10曲、43分35秒。A面はロック寄りの5曲で、「Black/White」は3曲のトップ10ヒットの後、1986年7月に4枚目のシングルとして切られた。B面1曲目の「Is It Love」は同年6月に Hot 100 で8位、バンド最後の大ヒットになり、翌年の映画『Stakeout』のエンド・クレジットに使われている。
ふたつの1位曲は B面の中央、7曲目と8曲目に隣り合っている。速く上がった曲と、遅く上がった曲。4分26秒の「Kyrie」がフェードアウトし、5分44秒の「Broken Wings」の低いうねりが始まる。この温度差こそ、本作がシングル集ではなくアルバムとして残った理由だろう。ヒット曲が真ん中に集まる分、終盤の「Tangent Tears」(3分24秒、アルバム最短)とタイトル曲は静かな余白として機能している。
2010年の25周年盤——ライヴとダンス・ミックスの6曲
2010年4月20日にデジパック仕様の25周年リマスター盤が出た。オリジナル10曲に6曲が加わり、総収録時間は75分27秒。追加分は「Kyrie」「Broken Wings」のエクステンデッド、「Broken Wings」「Uniform of Youth」のライヴ、「Is It Love」のダンス・ミックスとダブ・ミックスで、当時の12インチ向け音源が一枚にまとまった形である。
速い曲と遅い曲、その後
本作のあと Mr. Mister は Tina Turner や Heart らのツアーに同行し、1987年の『Go On…』はトップ40ヒット1曲にとどまった。1990年に完成していた『Pull』が世に出たのは2010年である。Page は Toto と Chicago から誘いを受けたが、いずれも断ったと伝えられている。
「Broken Wings」の方は、2Pac の没後作「Until the End of Time」(2001)にサンプリングされるなど、バンドの活動が止まった後も歩き続けた。20分で書かれ、半年かけて登った曲が、結局いちばん長く残った。
聴き方としては、アルバム版の「Broken Wings」と4分43秒のラジオ・エディットを聴き比べることを勧めたい。放送局の耳に合わせてどこを削ったか——1985年のヒットの作られ方がそこに見える。同時代の AOR の中での位置づけは、AOR 名盤100選 完全ガイドも参照してほしい。
参考資料
- Wikipedia — Welcome to the Real World (Mr. Mister album)(クレジット・チャート・エディション)
- RIAA Gold & Platinum — Mr. Mister(プラチナ認定日)
- Billboard — Mr. Mister Chart History(チャート成績)
- AllMusic — Welcome to the Real World(レビュー・クレジット)
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