1980年2月27日、ロサンゼルスの Shrine Auditorium で開かれた第22回グラミー賞。この年の Song of the Year(最優秀楽曲賞)は候補が8曲あり、そのうち2曲が同じアルバムから、同じ作者の名前で並んでいた。「What a Fool Believes」(Kenny Loggins & Michael McDonald)と「Minute by Minute」(Lester Abrams & Michael McDonald)——どちらも Doobie Brothers の8作目『Minute by Minute』の A面に収められた曲である。
結果は前者の受賞だった。しかし、自分の曲が自分の曲を破った夜に、それを録音した6人のうち2人——ギタリストの Jeff “Skunk” Baxter とドラマーの John Hartman——はすでにバンドを離れていた。1978年12月1日に出たこのアルバムは、頂点に達したときには、それを作った編成が存在しない作品になっていた。本稿はこの「候補2曲」と「いなくなった2人」を軸に『Minute by Minute』を読む。
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1980年2月27日——候補8曲に、同じ作者の名前が2度
第22回グラミーで Doobie Brothers 関連の名前が呼ばれた回数は4度である。Record of the Year と Song of the Year は「What a Fool Believes」、Best Arrangement Accompanying Vocalist(s) は同曲の編曲者として Michael McDonald 個人、そして Best Pop Vocal Performance by a Duo, Group or Chorus は「Minute by Minute」名義。Album of the Year にも本作は候補に挙がったが、こちらは Billy Joel『52nd Street』に譲っている。
見落とされがちなのは、Song of the Year の候補欄である。この年は候補が8曲と多く、「After the Love Has Gone」(David Foster / Jay Graydon / Bill Champlin)、「I Will Survive」、「Honesty」、「Chuck E.’s in Love」、「Reunited」、「She Believes in Me」と並んで、McDonald の名前が2度出てくる。ひとりの作曲家が同じ年の同じ部門に、同じアルバムから2曲を送り込んだ——AOR の側から見れば、Foster と Graydon の「After the Love Has Gone」を含めて、候補8曲のうち3曲がこのブログの守備範囲だった年でもある。
| 部門 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| Record of the Year | What a Fool Believes(プロデュース: Ted Templeman) | 受賞 |
| Song of the Year | What a Fool Believes(Loggins / McDonald) | 受賞 |
| Song of the Year | Minute by Minute(Abrams / McDonald) | 候補 |
| Best Arrangement Accompanying Vocalist(s) | What a Fool Believes(編曲: Michael McDonald) | 受賞 |
| Best Pop Vocal Performance by a Duo, Group or Chorus | Minute by Minute | 受賞 |
| Album of the Year | Minute by Minute | 候補(受賞は『52nd Street』) |
2つの候補曲は、どちらも「バンドの外」から始まった
並んだ2曲には共通点がある。どちらも Doobie Brothers のメンバー同士ではなく、外部の共作者と書かれた曲だということだ。
What a Fool Believes——Loggins の家ではなく、McDonald の家で
よく知られた経緯だが、順序を正確に置いておきたい。かねて共作を望んでいた Kenny Loggins が McDonald の家を訪ねると、McDonald がピアノで弾いていた断片が聞こえた。Loggins は「She had a place in his life」というフックをすでに温めていて、その断片に乗せることを提案する。ふたりが育った時代の Four Seasons の「Sherry」や「Walk Like a Man」を念頭に置きながら、曲は翌日には完成していた。
そして、先に世に出したのは Loggins の側である。1978年7月12日の『Nightwatch』(プロデュース: Bob James)に収められた Loggins 版が、Doobie Brothers 版より5か月早い。つまり『Minute by Minute』の看板曲は、発売の時点ですでに「共作者のアルバムに入っている曲」だった。Doobies 版のシングルは1979年1月20日付で73位から Hot 100 に入り、4月14日付で1位に達している。1位在位は1週。
Minute by Minute——Lester Abrams という共作者
もう1曲の候補「Minute by Minute」の共作者 Lester Abrams は、本作で McDonald ともっとも深く関わった外部の書き手である。タイトル曲のほかに「Here to Love You」(Loggins も加わった3人の共作)と「Open Your Eyes」(Patrick Henderson との3人共作)に名前があり、「How Do the Fools Survive?」ではエレクトリック・ピアノも弾いている。McDonald がリードを取る5曲のうち4曲に Abrams が関与しているわけで、本作の「McDonald の音」は、実際には McDonald と Abrams の音と言ったほうが近い。タイトル曲は1979年4月25日にシングルとなり、Hot 100 で14位、カナダでは5位まで上がった。
4月14日付の同時1位——チャートに残った数字
1979年4月14日付の Billboard で、「What a Fool Believes」が Hot 100 の1位、『Minute by Minute』が Billboard 200 の1位を同時に占めた。アルバムのほうは1979年春に非連続で5週1位に立ち、通算87週チャートに留まる。RIAA の認定は1984年10月22日付で3×プラチナ。バンドのカタログで最も売れた1枚である。
もうひとつ、あまり語られない数字がある。Warner Bros. は1978年に「What a Fool Believes」の12インチ・ディスコ・ヴァージョン(B面は「Don’t Stop to Watch the Wheels」)を出しており、これが1979年4月に Billboard の National Disco Action チャートで40位に入っている。ディスコ全盛の年に、AOR の代名詞のような曲がディスコ・チャートにも顔を出していた。
| 項目 | 成績 |
|---|---|
| Billboard 200 | 1位(1979年春、非連続5週)/ 87週チャートイン / 年間29位 |
| カナダ / オランダ | アルバム・チャート1位 |
| RIAA | 3×プラチナ(1984年10月22日認定) |
| What a Fool Believes(1979年1月) | Hot 100 1位(4月14日付、1週)/ AC 1位 / アイルランド1位 / 英国5位 |
| 同曲 12インチ・ディスコ版 | National Disco Action 40位(1979年4月) |
| Minute by Minute(1979年4月25日) | Hot 100 14位 / AC 13位 / カナダ5位 |
| Dependin’ on You(1979年7月25日) | Hot 100 25位 |
受賞曲のドラムを叩いているのは誰か——クレジットを読む
本作は Warner Bros. Recording Studios(North Hollywood)で録音され、Sunset Sound でミックスされた。プロデュースは Ted Templeman、エンジニアは Donn Landee という『Takin’ It to the Streets』以来の顔ぶれである。ここで注目したいのは、Record of the Year を獲った「What a Fool Believes」の演奏者の欄だ。ドラムは Keith Knudsen と、プロデューサーの Templeman 本人。創設メンバーのドラマー John Hartman の名前はこの曲にはない。シンセサイザーは McDonald と、Little Feat の Bill Payne が Oberheim で重ねている。
もうひとつ、A面5曲目「Don’t Stop to Watch the Wheels」のバッキング・ヴォーカルには Tom Johnston の名前がある。1977年に脱退した創設者が、Simmons と Baxter らの書いたこの1曲にだけ声を残しているのだ。Johnston 不在を前提に語られるアルバムの中に、当の Johnston が1曲だけ立っている。
| パート | クレジット |
|---|---|
| バンド | Patrick Simmons (g, vo) / Michael McDonald (key, vo) / Jeff “Skunk” Baxter (g) / Tiran Porter (b, vo) / John Hartman (ds) / Keith Knudsen (ds, vo) |
| プロデュース / エンジニア | Ted Templeman(ドラム・パーカッションでも参加)/ Donn Landee |
| 録音 / ミックス | Warner Bros. Recording Studios, North Hollywood / Sunset Sound, Los Angeles |
| 客演(鍵盤) | Bill Payne (synth: What a Fool Believes, Minute by Minute) / Lester Abrams (el-p: How Do the Fools Survive?) |
| 客演(弦・管など) | Herb Pedersen (banjo) / Byron Berline (fiddle) / Norton Buffalo (harmonica) / Andrew Love (sax) / Ben Cauley (tp) / Bobby LaKind (congas) |
| ヴォーカル客演 | Nicolette Larson (Dependin’ on You, Sweet Feelin’) / Rosemary Butler (Here to Love You, Dependin’ on You) / Tom Johnston (Don’t Stop to Watch the Wheels) |
ヴォーカル客演の Nicolette Larson は、本作と同じ1978年秋に Warner からデビュー作『Nicolette』を出したばかりで、その「Lotta Love」が全米8位に向かっていた時期にあたる。Templeman の周辺で人が行き来していたことが、クレジットからも見て取れる。
授賞式の夜、6人のうち2人がいない
『Minute by Minute』は、John Hartman と Jeff Baxter が参加した最後の Doobie Brothers のアルバムになった(Hartman は1989年の『Cycles』で一度戻る)。2人は1979年のうちにバンドを離れている。理由として伝えられているのは方向性の違いで、McDonald は率直でソウルフルな、磨かれたロック/R&B の音を望み、Baxter はより実験的なギターへ向かっていた。McDonald が、自分の曲のギター・ラインを Baxter が書き換えることに不満を募らせていたという証言もある。
後任はいずれも1979年に決まった。ギターとペダル・スティールには Clover 出身の John McFee、ドラムには Chet McCracken、さらにキーボード/サックスの Cornelius Bumpus が加わり、この編成で次作『One Step Closer』(1980年)が作られる。つまり1980年2月27日の Shrine Auditorium で「Minute by Minute」名義のグループ・ヴォーカル賞を受け取った Doobie Brothers は、その曲を録音した Doobie Brothers とは半分近く顔ぶれが違っていた。
本作を「Michael McDonald 時代の頂点」と呼ぶのは正しい。ただ、それは同時に、McDonald と Baxter という Steely Dan 出身の2人が同じバンドにいた最後の記録でもある。Baxter のギターが McDonald の鍵盤と拮抗している場面は、本作を最後に Doobies のカタログから消える。
候補2曲の外側にある8曲
本作は McDonald がリードを取る5曲と、Patrick Simmons がリードを取る5曲で構成されている。グラミーの候補欄に並んだのは McDonald の側だが、アルバムとしての手触りを決めているのは Simmons の側の振れ幅である。
Simmons の5曲——「Dependin’ on You」から「Steamer Lane Breakdown」まで
3枚目のシングル「Dependin’ on You」(Simmons / McDonald 共作、Hot 100 25位)は、Larson と Butler のコーラスを従えた軽快なミドルで、McDonald 時代のアルバムに残る「もう一つの声」を示す。「Don’t Stop to Watch the Wheels」は Simmons、Baxter、Michael Ebert の共作で、前述のとおり Johnston がコーラスに加わる。Templeman との共作「Sweet Feelin’」は2分41秒と本作最短で、Larson とのデュエットが聴ける。
B面3曲目のインストゥルメンタル「Steamer Lane Breakdown」は、Simmons が育った Santa Cruz のサーフ・スポットの名を冠したブルーグラス曲で、Herb Pedersen のバンジョーと Byron Berline のフィドルの居場所はここだ。グラミーで4部門を獲るアルバムの真ん中に、バンジョーとフィドルの2分半が置かれている——この落差が、Doobie Brothers を単なる「McDonald のバンド」にしていない。
McDonald の残り3曲——「Here to Love You」「Open Your Eyes」「How Do the Fools Survive?」
オープニングの「Here to Love You」は McDonald / Loggins / Abrams の3人共作で、候補2曲の作者が全員そろう唯一の曲である。「Open Your Eyes」は Abrams と Patrick Henderson が加わったゴスペル寄りの1曲。そして5分12秒と本作最長のクロージング「How Do the Fools Survive?」は、McDonald と Carole Bayer Sager の共作で、Abrams のエレクトリック・ピアノが支える。A面2曲目の「Fool」が単数で、最後の「Fools」が複数——同じ語をアルバムの両端に置いた構成は、意図の有無にかかわらず、この盤の読み方を一つ与えている。
『One Step Closer』へ、そして1982年9月11日
本作の成功は次作にとって重荷になった。1980年の『One Step Closer』は「Real Love」(Hot 100 5位)とタイトル曲(24位)を出したものの、『Minute by Minute』の水準には届かなかった。McDonald 流のサウンドが他のアーティストにも広がり、市場が飽和していたことが一因とされる。バンドは1982年9月11日、Berkeley の Greek Theatre での公演を最後に一度解散し、この夜には Johnston も「China Grove」で加わった。McDonald のソロ作『If That’s What It Takes』はその直前に出ている。
Rolling Stone は本作について、強力なリズム隊、複数の書き手と歌い手、優れたリード・ギタリスト、傑出したリード・シンガーという「火力」を持ちながら、偉大さの縁をなぞるだけに甘んじるべきではない、と書いた。褒め言葉に留保が付いたこの評は、いま読むと別の意味を帯びる。その火力は、このアルバムを最後に分解されたのだから。
候補2曲から聴き始める
本作を初めて通して聴くなら、まず「What a Fool Believes」と「Minute by Minute」を続けて聴くことを勧めたい。同じ作者、同じ歌い手、同じ Bill Payne のシンセサイザーを持つ2曲が、片方は1位、片方は14位に落ち着いた理由が、並べると輪郭を持って見えてくる。その後で「Steamer Lane Breakdown」と「Dependin’ on You」に進めば、この6人が1978年の時点でどれだけ幅を持っていたか——そして、その幅が翌年には失われたことが分かる。Boz Scaggs『Silk Degrees』 から AOR 名盤100選 へ棚をたどるとき、本作は「白いソウル」の到達点として置かれることが多いが、実際には Simmons と Baxter の側にも半分の重心がある。
参考資料
- Wikipedia (en) — Minute by Minute(録音データ・チャート・クレジット)
- Recording Academy — 22nd Annual Grammy Awards(候補・受賞一覧)
- RIAA Gold & Platinum — Minute by Minute(認定枚数)
- AllMusic — The Doobie Brothers『Minute by Minute』(評価・レビュー)
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