1979年10月、Styx は通算9枚目のスタジオ・アルバム『Cornerstone』を A&M Records からリリースした。Illinois 州シカゴ発のこのバンドは、1970年代を通じてプログレッシブ・ロックとポップ・ロックを融合させた独特の音楽性で成功を収め、本作で Billboard 200 で2位、最終的に米国だけで300万枚(3倍プラチナ)を売り上げた。先行シングル “Babe” は彼らにとって初の全米1位(2週連続)を獲得、Adult Contemporary でも1位、AC でも長期間チャート在留。アリーナAOR とプログレッシブ・ロックの境界線を巧みに行き来した本作は、Styx 黄金期の代表作として、現在も80年代ロック愛好家から愛され続けている。
このアルバムを聴くべき3つの理由
- Babe — Dennis DeYoung が妻 Suzanne の誕生日に贈った楽曲。Styx 初の全米1位となった、AOR バラードの代表作
- Dennis DeYoung(キーボード/ヴォーカル)、James Young、Tommy Shaw のソングライティング3頭体制。1作で3つの音楽的な顔を持つ
- プログレッシブ・ロックの構造的複雑さと、AOR のメロディの強度を完璧に均衡させた、稀有な作例
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背景:プログレからAOR寄りへ
Styx は1961年シカゴで、Dennis DeYoung(ヴォーカル/キーボード)と Chuck Panozzo(ベース)、John Panozzo(ドラム)の高校生3人による The Tradewinds として発足。1970年に Styx と改名し、1972年にデビュー作をリリース。1975年に Tommy Shaw(ギター/ヴォーカル/ソングライター)が加入してから、バンドの音楽性は急速に AOR 寄りに変化した。
1977年の『The Grand Illusion』、1978年の『Pieces of Eight』と、立て続けにマルチ・プラチナ作を放ち、アリーナロック / プログレ系AOR の代表バンドとしての地位を確立。本作はその延長線上に位置する作品で、しかし前2作よりも “ポップ寄り” の方向性が強まり、Babe のような直球の AOR バラードを核に据えた構成となった。
プロデュースはバンド自身。録音は1979年初頭、シカゴの Pumpkin Studios で。Dennis DeYoung のポップ路線と、Tommy Shaw のロック路線、James Young のハードロック寄りの嗜好——3者の音楽的方向性の対立は、本作の制作中から表面化し始めていた。
全曲レビュー(Side A → Side B)
Side A
1. Lights(4:18)
Tommy Shaw 主導のオープナー。Dennis DeYoung のシンセサイザーと、Shaw のアコースティック・ギターが共演する、プログレ系AOR の典型的な楽曲。
2. Why Me(3:55)
Dennis DeYoung の作曲&ヴォーカル。本作のなかでもっとも自伝的な歌詞を持つ楽曲。
3. Babe(4:26)★ ティアA
本作の——そして Styx のキャリア全体の——もっとも有名な楽曲。Dennis DeYoung が妻 Suzanne の31歳の誕生日プレゼントとして書いた楽曲。Billboard Hot 100 で2週連続1位(Styx 初の1位)、Adult Contemporary 1位、世界中の主要チャートで上位を獲得。
“Babe, I’m leaving / I must be on my way…” の繊細な歌い出し、DeYoung のピアノとシンセサイザー、Shaw のアコースティック・ギターのアルペジオが、ロード・ミュージシャンの旅立ちの切なさを完璧に音響化する。AOR バラードの代表的楽曲として、結婚式や卒業式の定番として現在も愛されている。
4. Never Say Never(3:13)
James Young の作曲&ヴォーカル。本作のなかで最もハードロック寄りの楽曲。
5. Boat on the River(3:10)
Tommy Shaw 主導の、アコースティック・ギターとマンドリンが奏でるトラディショナル風ナンバー。本作の最も “プログレッシブ的” な楽曲で、ヨーロッパ(特にドイツ)で大ヒットした。
Side B
6. Borrowed Time(4:55)
シングル・カット(Billboard Hot 100 で64位、Mainstream Rock チャート1位)。Dennis DeYoung と Tommy Shaw の共作。本作の中で最もアリーナロック寄りの楽曲。
7. First Time(4:32)
Tommy Shaw 主導のバラード。Babe と対をなす、本作のもう一つの繊細な楽曲。
8. Eddie(4:52)
James Young の作曲。Edward Kennedy 上院議員(1979年の大統領選への出馬を意識した時期)へのトリビュート楽曲。本作のなかで最も政治的な側面を持つ1曲。
9. Love in the Midnight(5:08)
クロージング。Dennis DeYoung の作曲&ヴォーカル。本作のテーマである “夜の愛と別れ” を、5分超の長尺で締めくくる絶妙な配置。
参加メンバー(Styx 5人組)
- Lead Vocals/Keyboards: Dennis DeYoung
- Lead Vocals/Guitar: Tommy Shaw
- Guitar/Vocals: James “JY” Young
- Bass: Chuck Panozzo
- Drums: John Panozzo
- Producer: Styx(バンド自身)
この5人組は、Styx 黄金期(1975〜1983)の正規ラインナップ。Dennis DeYoung の “ポップ寄り”、Tommy Shaw の “シンガー・ソングライター寄り”、James Young の “ハードロック寄り”——3つの異なる音楽的方向性が、本作のなかで完璧に均衡している。
プログレ系AOR の構造的特徴
Styx の音楽の最大の特徴は、Yes / Genesis / King Crimson などの英国プログレッシブ・ロックの構造的複雑さと、Foreigner / Journey などのアリーナロックのメロディの強度を、ひとつの楽曲のなかに融合させたことにある。具体的には:
- Dennis DeYoung のキーボード・アレンジ:プログレ的な複雑な和声進行とシンセサイザーの音響柱
- Tommy Shaw のアコースティック・ギター:フォーク/カントリー寄りの親密さ
- James Young のハード・ロック・ギター:アリーナロックの強度
この “3つの音楽的方向性” を、ポップ・ロックのフォーマットに収めるという困難な作業を、Styx は本作で完璧に達成した。これは Kansas、Asia、初期 Mr. Mister などの “プログレ系AOR” の共通の方法論であり、AOR のサブジャンルの一つとして重要な系譜を形成している。
このアルバムの位置付け
- 1977: The Grand Illusion(マルチプラチナ、”Come Sail Away”)
- 1978: Pieces of Eight(”Renegade”)
- 1979: Cornerstone(本作、頂点の一つ)
- 1981: Paradise Theatre(”The Best of Times”)
- 1983: Kilroy Was Here(コンセプト作、内部対立で活動停止)
私的な感想——Babe の “シンプル” の力
“Babe” は、Styx の楽曲のなかでもっともシンプルで、もっとも有名な1曲である。Dennis DeYoung が妻に書いた誕生日プレゼントの楽曲が、結果的に Billboard Hot 100 で2週連続1位を獲得するという事実は、AOR の “個人的な感情の普遍化” の力を示している。技術的に派手なギター・ソロもなく、プログレ的な変拍子もない。だが、その “削ぎ落とした” シンプルさこそが、本曲を時代を超えて愛される楽曲にしている。
Styx の音楽は、しばしば “プログレ寄りすぎる” “ポップ寄りすぎる” と両方向から批判されてきた。だが、本作の “Babe” を聴くと、彼らがいかにジャンルの境界線で巧みにバランスを取っていたかが理解できる。AOR を語るうえで、Styx の本作は決して見落としてはならない、重要な1枚である。
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