1979年10月に A&M Records から出た Styx の9作目『Cornerstone』には、奇妙な共通点を持つ2曲が入っている。どちらも「Styx の曲」として書かれたものではなかった。Dennis DeYoung の「Babe」は妻への誕生日の贈り物で、Panozzo 兄弟だけを呼んで録ったデモだった。Tommy Shaw の「Boat on the River」は、弾けないマンドリンを相手に自宅の4トラック・レコーダーで作った曲で、Shaw 自身「バンドがこれをやるはずがない」と思っていたという。
その2曲が、結果的にこのアルバムの最大のヒットになった。「Babe」は Billboard Hot 100 で2週1位——Styx のキャリアで唯一の全米1位である。「Boat on the River」は米国ではシングルにすらならなかったのに、スイスで1位、西ドイツで5位まで上がり、バンド最大の欧州ヒットになった。
そしてこの成功には続きがある。「Babe」の次のシングルを何にするかで、1980年の年明けにバンドは一度割れた。本稿はこの「意図せざる2曲」を軸に『Cornerstone』を読み直す。
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鍵盤ひとつと兄弟のリズム隊——「Babe」はデモのまま世に出た
DeYoung は「Babe」を妻 Suzanne の誕生日プレゼントとして書き、バンドのレパートリーにするつもりはなかった。録音したのは DeYoung と Chuck Panozzo(b)、John Panozzo(ds)の3人だけで、ハーモニーも DeYoung が全パートを一人で重ねている。ギタリスト2人は関与していない。
このデモを聴いた James Young と Tommy Shaw、そして A&M の幹部が、収録するよう DeYoung を説得した。収録されたのは、そのデモに Shaw が中間部のギター・ソロを重ねただけの音源である。主題は「二人の人間の別離」である。
1979年9月14日にリードシングルとして発売された「Babe」は、12月8日と15日付の Hot 100 で1位を記録した。1970年代で最後から2番目の全米1位曲である。英国でも6位まで上がった。なお Adult Contemporary チャートは1位ではなく9位で、この数字はよく誤って伝えられる。
弾けないマンドリンから——「Boat on the River」の4トラック
もう一本のデモは Shaw の側から来た。American Songwriter のインタビューによれば、Shaw はマンドリンを買って帰宅し、弾けないことに気づいた。弾けない楽器で何かをするには自分で作るしかない——そうして生まれた進行に、自宅の4チャンネルのオープンリール機でギター、ベース、ヴォーカルを重ねた。自分のためだけに作ったつもりだったという。
ところがバンドに聴かせると、DeYoung が気に入って「アルバムに入れよう」と言った。完成版では Shaw がリード・ヴォーカルとマンドリン、DeYoung がアコーディオンとハーモニーを担当し、James Young は参加していない。
米国ではシングルにならなかった(代わりに「Borrowed Time」が出て64位)。しかし1980年3月に欧州でシングル化されると、スイスで1位、オーストリアで2位、西ドイツで5位。アルバムも西ドイツで6位に入り、同国でゴールド認定を受けた。
米国と欧州で、まったく違う顔をしたアルバム
2本のデモが別々の大陸で頂点に届いた結果、『Cornerstone』のシングル成績は市場ごとに別のアルバムのように見える。
| 楽曲 / 作品 | 作者 | US Hot 100 | 欧州・その他 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 『Cornerstone』(アルバム) | — | Billboard 200 2位 | 西ドイツ 6位 / カナダ 3位 / 英国 36位 | RIAA 2×プラチナ(1984年11月14日認定)/ 西ドイツ ゴールド |
| Babe | DeYoung | 1位(2週:1979年12月8日・15日付) | 英国 6位 / カナダ 1位(6週)/ 南アフリカ 1位 | AC は9位。Styx 唯一の全米1位 |
| Why Me | DeYoung | 26位 | カナダ 10位 | 第2シングル。B面は「Lights」 |
| Borrowed Time | DeYoung / Shaw | 64位 | — | 米国第3シングル(1980年3月) |
| Boat on the River | Shaw | 未発売 | スイス 1位 / オーストリア 2位 / 西ドイツ 5位 / オランダ 29位 | 欧州向けシングル(1980年3月) |
2位止まりのアルバム、落選したグラミー
米国では Billboard 200 で2位まで上がったが、1位には届かなかった。1979年11月3日付から年末まで9週にわたって1位を占めたのは Eagles の『The Long Run』だった。それでも『The Grand Illusion』(1977)、『Pieces of Eight』(1978) に続く3作連続のマルチプラチナとなり、RIAA は1984年11月14日に2×プラチナ(200万枚)を認定している。「300万枚」と書かれることがあるが、RIAA の認定は2×プラチナである。
本作は Styx が初めてグラミーにノミネートされたアルバムでもある。1980年2月の第22回グラミー賞、Best Rock Performance by a Duo or Group with Vocal 部門。ただし受賞したのはここでも Eagles で、曲は「Heartache Tonight」だった。Eagles 側の事情は 『The Long Run』のレビュー に譲るが、この年の Styx はチャートでも授賞式でも Eagles の後ろにいた。
エンジニアの Gary Loizzo と Rob Kingsland も Best Engineered Recording の候補になった。Loizzo は The American Breed の元リード・シンガーで、1976年に Illinois 州 Oak Lawn に Pumpkin Studios を開いた人物である。
1980年の年明け——第2シングルをめぐる分岐点
「Babe」が1位になった直後、次のシングルをどうするかで問題が起きた。DeYoung と A&M の当初の案は、同じく DeYoung 作のバラード「First Time」だった。一部のラジオ局はすでにオンエアを始めていたという。しかし Shaw は、バラードを2曲続ければロック寄りのファン層を失うと考えて強く反対し、バンドを離れる可能性まで口にしたと伝えられる。
方向性の違いは、1980年初頭に DeYoung が一時的にバンドから外れるところまで行った。ただし、報道や公になる前に DeYoung は呼び戻され、第2シングルにはアップテンポの「Why Me」(これも DeYoung 作)が選ばれた。「Why Me」は Hot 100 で26位。「First Time」がシングルとして出たのは、結局フィリピンだけである。
本作が「Styx の芸術観が最初に割れたアルバム」と呼ばれる理由はここにある。ポップ方向へ進みたい DeYoung と、ロックの軸を守りたい Shaw と Young。同じ亀裂は『Paradise Theatre』(1981) の全米1位に一度隠れ、『Kilroy Was Here』(1983) の後に表面化する。最初の裂け目が入ったのは、「バンドのために書かれなかった曲」が1位を取った直後だった。
DeYoung と Shaw が5曲ずつ——残りの曲の聴きどころ
9曲のうち DeYoung と Shaw がそれぞれ5曲に名を連ね(共作2曲を含む)、James Young の曲は1曲だけ。残りの曲も「二人の作家の綱引き」として聴くと輪郭が出る。
Lights(Shaw / DeYoung, 4:38)
共作のオープナー。Ed Tossing のホーンが乗り、Rolling Stone の David Fricke は「AM ラジオに引っかけられるフックがまた一つ」と評した。
Never Say Never(Shaw, 3:08)/ Borrowed Time(DeYoung / Shaw, 4:58)
Shaw のポップ・ロッカーと、共作のハード寄りの曲。後者は米国第3シングルで、Billboard は「前の2枚よりハードにロックしている」と評した。
First Time(DeYoung, 4:25)
Arnie Roth の弦楽を伴う DeYoung のもう一本のバラード。第2シングルになりかけた曲で、Shaw 作と書かれることがあるが誤りである。
Eddie(Young, 4:15)
James Young 唯一の曲。大統領選出馬が取り沙汰されていた Edward Kennedy 上院議員に向けたハードロック。
Love in the Midnight(Shaw, 5:25)
クロージングは Shaw の曲でアルバム最長。Roth の弦楽が再び入り、プログレ時代の Styx を思わせる展開を持つ。作者は DeYoung ではなく Shaw である。
『Cornerstone』を支えた録音データ
| リリース | 1979年10月 / A&M Records(収録時間 38:17、全9曲) |
| 録音 | 1979年 / Pumpkin Studios(Oak Lawn, Illinois) |
| プロデュース | Styx(5作連続のセルフ・プロデュース) |
| エンジニア | Rob Kingsland, Gary Loizzo(第22回グラミー Best Engineered Recording 候補) |
| マスタリング | Ted Jensen / Sterling Sound(New York) |
| バンド | Dennis DeYoung (vo, key, accordion) / Tommy Shaw (vo, g, mandolin, autoharp) / James Young (vo, g, guitar synth) / Chuck Panozzo (b) / John Panozzo (ds, perc) |
| 客演 | Steve Eisen (sax: Why Me) / Arnie Roth (strings: First Time, Love in the Midnight) / Ed Tossing (horns: Lights) |
『Cornerstone』が残したもの
AllMusic の Mike DeGagne は「Babe」を「史上最高のロック・バラードの一つ」と呼ぶ一方、他の曲は「半分の強さもない」と手厳しい。だが本作の面白さは完成度よりも、「バンドの外で生まれた2曲が、バンドの行き先を決めてしまった」という構造にある。
同じ1979〜81年に、アリーナ AOR は REO Speedwagon『Hi Infidelity』 や Foreigner『4』 で、バラードを武器にした拡張を進めていた。Styx はその先頭に「Babe」を置きながら、内側から揺れた。
どこから聴くか。まず「Babe」を、ギターの入っていないデモとして。次に「Boat on the River」を、弾けないマンドリンが作った進行として。その上で「First Time」と「Why Me」を続ければ、1980年の年明けにバンドが何を選ばなかったかが聞こえてくる。より広い文脈は AOR 名盤100選 も参照されたい。
参考資料
- Wikipedia (en) — Cornerstone (Styx album)(クレジット・チャート・制作経緯)
- RIAA Gold & Platinum — Styx / Cornerstone(2×プラチナ認定)
- AllMusic — Styx『Cornerstone』(評価・レビュー)
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