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Songs in the Key of Life – Stevie Wonder 完全レビュー|ポップ史上の頂点に立つ二枚組大作(1976)

Songs in the Key of Life - Stevie Wonder レビュー
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1976年9月、Stevie Wonder は通算18作目となる二枚組大作『Songs in the Key of Life』を Tamla(Motown 傘下)からリリースした。Talking Book(1972)/Innervisions(1973)/Fulfillingness’ First Finale(1974)に続く “古典三部作” の後に、2年の沈黙を経て世に問うた本作は、Billboard 200 で14週連続1位、グラミー賞 Album of the Year を獲得、最終的に米国だけで1000万枚(ダイヤモンド認定)を売り上げた。”Sir Duke” “I Wish” “Isn’t She Lovely” の3つの大ヒットを擁し、ポップ・ミュージック史上の頂点に立つ作品として、AOR / メロウ系統の源流としても極めて重要な1枚である。

Stevie Wonder - Sir Duke (Official Audio)
目次

このアルバムを聴くべき3つの理由

  • 全21曲、105分。ポップ・ソウル・ジャズ・ファンク・ゴスペル・ラテンを全部内包した “音楽の百科事典”
  • “Sir Duke” のホーン・アレンジ、”I Wish” のクラビネット、”As” のコード進行——80年代以降のすべてのポップ/AOR の語彙の源流
  • Marvin Gaye『I Want You』と並ぶ1976年ソウルの2大金字塔。”Boz Scaggs 『Silk Degrees』前夜” の音響を Motown 側から定義した1枚

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背景:2年の沈黙と “頂点” への道

1974年の『Fulfillingness’ First Finale』でグラミー賞 Album of the Year を3年連続で獲得(1973年 Innervisions、1974年 Fulfillingness)した Stevie Wonder は、その後2年間スタジオでの活動を控えた。彼自身がアメリカからの “引退” を考えていた時期もあり、ガーナへ移住して農業をやろうとしていたという逸話も残る。最終的に、彼は Motown と当時史上最高額の契約(700万ドル、7年)を結び、本作の制作に専念することを決断した。

録音は1974年〜1976年、ロサンゼルスの Crystal Sound と Record Plant Hollywood で。Stevie はほぼ全曲で複数の楽器を一人で多重録音(特にクラビネット、Rhodes、ドラム)。同時に、Herbie Hancock、George Benson、Steve Madaio、Sneaky Pete Kleinow、Hank Redd、Susaye Greene ら一流のセッションマンも招き、膨大な時間をかけて磨き上げた。最終的に二枚組+EP盤(4曲)の構成で、全21曲・105分という当時としては前代未聞のスケールに到達した。

本作のリリース日には、ニューヨーク Tower Records に深夜行列ができ、ベルリン、東京を含む世界中で同時発売イベントが開催された。リリース週には Billboard 200 で初登場1位、14週連続1位を維持。グラミー賞 Album of the Year を含む4部門を受賞した。

主要曲レビュー(厳選)

全21曲は紙面の都合で全曲解説は省略し、AOR / メロウ系統の文脈で特に重要な楽曲のみ深掘りする。

1. Love’s in Need of Love Today(7:05)

オープナー。7分を超える瞑想的なバラード。Stevie 自身の多重録音されたコーラスが、まるで聖歌隊のように構造化される。AOR の “メロウ” の核心がここに既にある。

2. Sir Duke(3:52)★ ティアA

Duke Ellington への追悼として書かれた、本作最大のシングル・ヒット(Billboard Hot 100 で1位)。ホーン・セクションの “ダダダ・ダダダダ” のフレーズは、ポップ史上もっとも有名なリフのひとつ。Steve Madaio のトランペット、Hank Redd のテナー・サックスが主役。AOR のホーン・アレンジ語彙はここから始まったと言ってよい。

3. I Wish(4:12)★ ティアA

Billboard Hot 100 で1位(2作連続)。Stevie が子供時代を回想するファンキーなナンバー。彼自身のクラビネットのリフ(あの “ダンダラ・ダンダラ” )は、その後のすべての70年代ファンクのテンプレートとなった。Nathan Watts のベース、Raymond Pounds のドラムも、グルーヴ史上の名演として記憶されている。

5. Pastime Paradise(3:27)

シンセサイザーとストリングス・アンサンブル(Stevie 自身が Yamaha GX-1 と Polymoog でアレンジ)が織りなす、未来を憂う重厚なバラード。1995年に Coolio が “Gangsta’s Paradise” としてサンプリング、グラミー賞を獲得した(原作者として Stevie がクレジットを受け取った)。

7. Isn’t She Lovely(6:34)★ ティアA

娘 Aisha Morris の誕生を祝う、ポップ史上もっとも有名な “お祝いの歌”。Stevie のハーモニカ・ソロは、彼の楽器演奏のなかでもっとも有名なフレーズのひとつ。ライブ盤、ジャズ・スタンダード、結婚式・出産祝い・卒業式の定番として、世界中で40年以上演奏され続けている。

11. Knocks Me Off My Feet(3:36)★

AOR / シティポップ・ファンに愛されるメロウ・ピアノ・バラード。Stevie の Rhodes と、繊細なヴォーカルだけのシンプルなアレンジが、本作の “もう一つの顔” を示す。日本のシティポップ作家(特に山下達郎、寺尾聰)が直接的に影響を受けた1曲。

17. As(7:08)★ ティアA

7分を超える叙情的なソウル・ファンク・バラード。”Until the day is night and night becomes the day…” と続く永遠の愛の誓い。後の George Michael / Mary J. Blige のデュエット(1999)が大ヒットしたことで、再評価された。Stevie の歌唱史でも最高峰の演奏のひとつ。

18. Another Star(8:28)★

8分超のラテン・グルーヴ。George Benson のギター、Bobbi Humphrey のフルートが彩る、本作のなかで最もエキゾチックな楽曲。シングル・カットされ Billboard 32位を記録。Stevie の “音楽の世界地図” の広がりを最も鮮明に示す。

参加メンバー(Stevie 自身+一流セッション陣)

  • Vocals/Keyboards/Drums/Bass/Harmonica/Synth: Stevie Wonder(ほぼ全楽器を多重録音)
  • Guitar: Michael Sembello, Ben Bridges, George Benson(”Another Star”)
  • Bass: Nathan Watts
  • Drums: Raymond Pounds
  • Horns: Steve Madaio, Hank Redd, Trevor Lawrence
  • Percussion: Eddie “Bongo” Brown
  • Strings/Synth Arrangement: Stevie 自身
  • Producer: Stevie Wonder

Stevie のソロ・スタジオ作の特徴は、彼自身が “ワン・マン・バンド” としてほぼ全楽器を演奏することにある。本作でも、ベースの大半、ドラム、Rhodes、クラビネット、シンセサイザーは Stevie 一人の演奏。これに、専門楽器(ホーン、ストリングス、複雑なギター)でセッションマンを招くという制作スタイル。AOR / メロウ系統の “ワン・マン・プロダクション” の方法論の確立に大きく寄与した。

AOR / メロウ系統への影響

本作の “ワン・マン・プロダクション” の方法論と、ジャンル横断的な楽曲構成は、その後の AOR / シティポップ / メロウソウルすべての作家に決定的な影響を与えた。具体例:

  • 山下達郎『Ride on Time』(1980) — “ワン・マン・プロダクション” の日本版
  • 大瀧詠一『A Long Vacation』(1981) — 多重録音の徹底
  • Boz Scaggs『Silk Degrees』(1976) — 同じ年のジャンル横断作
  • Donald Fagen『The Nightfly』(1982) — Stevie 的なコンセプト主導の AOR ソロ

つまり『Songs in the Key of Life』は、AOR が誕生する直前の “土壌” を整備した作品である。Marvin Gaye『I Want You』と並んで、1976年は AOR の “源流の年” として記憶されるべき1年だった。

このアルバムの位置付け

  • 1972: Talking Book(”Superstition” を擁する)
  • 1973: Innervisions(”Higher Ground” “Living for the City”)
  • 1974: Fulfillingness’ First Finale(”You Haven’t Done Nothin'”)
  • 1976: Songs in the Key of Life(本作、頂点)
  • 1979: Stevie Wonder’s Journey Through “The Secret Life of Plants”(実験作)

私的な感想——21曲・105分の “宇宙”

『Songs in the Key of Life』は、僕にとって “21曲がすべて捨て曲なし” の数少ないアルバムである。これほどジャンルを横断し、これほど密度の高い音楽が、ひとりのアーティストから生まれた事例は、ポップ史上ほぼ唯一の例外である。”Sir Duke” “I Wish” “Isn’t She Lovely” のヒット曲は誰でも知っているが、本作の真価は “As” “Another Star” “Knocks Me Off My Feet” のような中盤の隠れた名曲群にこそある。

AOR を語るとき、僕たちは Boz Scaggs から始めるのが習慣となっているが、1976年の同時期に、Stevie Wonder と Marvin Gaye が、ソウルの側から AOR の “前線” を切り拓いていた事実を忘れてはならない。本作は、ジャンルとしての AOR が誕生する “直前” の音響的到達点である。

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