1977年11月21日に Columbia から出た Earth, Wind & Fire の8作目『All ‘n All』には、1分前後の短いトラックが2度出てくる。どちらも「Brazilian Rhyme (Interlude)」という同じ題名で、片方は A面の「Love’s Holiday」の後ろに、もう片方は B面の「Runnin’」の後ろに置かれている。作曲クレジットには、ブラジルの歌手 Milton Nascimento の名がある。
この2つの1分間は、Maurice White が制作前に行った、アルゼンチンとブラジルへのひと月の旅の直接の産物である。旅の痕跡はそれだけではない。「Fantasy」と、グラミーを獲ったインストゥルメンタル「Runnin’」の共作者はブエノスアイレス生まれで、弦とホーンの編曲にはリオ出身の Eumir Deodato が座っている。
ところがジャケットに描かれているのは南米ではなく、エジプトのアブ・シンベル神殿と宇宙へ発射されるロケット群だ。音は南米を、絵はエジプトと宇宙を向く。その「向きの違い」を手がかりに『All ‘n All』を読み直す。
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Stepney のいない最初の一枚と、制作前のひと月
前作『Spirit』(1976) は Billboard 200 と Top Soul Albums の双方で2位、RIAA ダブル・プラチナ。しかしその制作途中で、長年の共同プロデューサー Charles Stepney が急逝した。『Spirit』という題名は彼への追悼で、残りの作業は Maurice White がほぼ一人で引き受けている。
続く『All ‘n All』は、White が Kalimba Productions 名義で単独プロデュースした最初のスタジオ・アルバムになる。次の一枚をどう作るかを探す時期に、彼はひと月かけてアルゼンチンとブラジルを回った。各種資料はこの旅を本作の「主な着想源」と記す。
録音は1977年8月、ロサンゼルスで。旅から戻って数か月で録音が始まり、その3か月後には店頭に並んでいた。
| リリース | 1977年11月21日 / Columbia Records(JC 34905) |
| 録音 | 1977年8月 / Hollywood Sound Recorders, The Burbank Studios, Sunset Sound(ロサンゼルス) |
| プロデュース | Maurice White(Kalimba Productions)/ アシスタント: Verdine White, Larry Dunn |
| エンジニア | George Massenburg |
| 編曲 | Tom Tom 84(ホーン・弦)/ Eumir Deodato(ホーン・弦: I’ll Write a Song for You, Be Ever Wonderful) |
| バンド | Maurice White (vo, ds, kalimba) / Philip Bailey (vo, perc) / Verdine White (b) / Larry Dunn (key) / Al McKay (g) / Johnny Graham (g) / Ralph Johnson, Fred White (ds) / Andrew Woolfolk (ts) |
| 客演 | Eduardo del Barrio (p) / Paulinho Da Costa (perc) / Dorothy Ashby (harp) / Don Myrick (sax solo: Runnin’) / Michael Harris (tp solo: Runnin’) |
| アートワーク | 長岡秀星(Shusei Nagaoka) |
Stepney が担っていた弦とホーンの書法は、Tom Tom 84 と Deodato に分担された。リオ出身の Deodato が受け持ったのは、A面を締める「I’ll Write a Song for You」(Bailey / Beckmeier / McKay 作、Bailey のファルセットが最も長く聴ける曲)と、B面を締める「Be Ever Wonderful」(Dunn / M. White 作)。両面の終曲がどちらもブラジル人の手で弦を着せられている。パーカッションの Paulinho Da Costa もリオ出身で、旅は人脈としても残った。
同じ題名が2度鳴る──「Brazilian Rhyme」の正体
オリジナル LP では、A面4曲目が「Love’s Holiday / Brazilian Rhyme (Interlude)」、B面2曲目が「Runnin’ / Brazilian Rhyme (Interlude)」と、本編と一続きの扱いで表記されている。CD 以降の分割では前者が Nascimento / Skip Scarborough / Maurice White、後者が Eduardo del Barrio / Nascimento の共作となっており、2つは別のモチーフだ。
B面側の1分間の元になったのは、Nascimento が Wayne Shorter の『Native Dancer』(1975) で歌った「Ponta de Areia」である。1999年のリマスター再発では、この曲が「Brazilian Rhyme (aka Ponta de Areia)」の名で、2分半あるスタジオ・アウトテイクとして追加された。つまり本編の1分間は、もっと長い録音を切り出したものだった。
歌詞のない、コーラスの掛け合いだけのこの短いトラックは、後年サンプリング・ソースとして繰り返し引用される。A面側の「Beijo」と通称されるほうも同様で、Take 6 の「Badiyah (Interlude)」がこれを下敷きにしている。アルバムでいちばん短いトラックが、いちばん長く引用され続けた。
ブエノスアイレス生まれの共作者──Eduardo del Barrio
1937年ブエノスアイレス生まれの Eduardo (Eddie) del Barrio は、当時ロサンゼルスでフュージョン・グループ Caldera を率いていた。White は彼をピアノと2曲の共作者として迎えた。
Fantasy──3か月かかった曲を、映画館で仕上げる
Maurice White / del Barrio / Verdine White の共作。White は3か月かけても完成させられず、映画『未知との遭遇』を観たことをきっかけに書き上げた。リード・ヴォーカルは Maurice White で、上に Philip Bailey のファルセットが重なる。1978年1月のシングルは Hot 100 で32位、Hot Soul Songs で12位と控えめだったが、英国では14位、日本では2011年に配信10万ダウンロードのゴールド認定を受けた。この曲の評価は米国の外で、時間をかけて確定した。
Runnin’──歌のないトラックが獲ったグラミー
del Barrio / Larry Dunn / Maurice White による約6分のインストゥルメンタル。Don Myrick のサックスと Michael Harris のトランペットのソロを経て「Brazilian Rhyme」へなだれ込む。1979年2月15日の第21回グラミー賞で、本作は Best R&B Vocal Performance by a Duo, Group or Chorus を受賞したが、それと並んで「Runnin’」は Best R&B Instrumental Performance を獲った。歌のない曲が、ヴォーカル・グループに賞をもたらした。
先行シングルだけが東を向いていた──「Serpentine Fire」
アルバムに先立って1977年10月に出た「Serpentine Fire」は、Maurice White / Verdine White / Sonny Burke の共作。Hot Soul Songs で7週連続1位、Hot 100 で13位、Billboard 誌はこれをその年の R&B シングルに選んだ。本作のなかで最も売れた曲である。
題名は東洋の身体観——脊柱に沿って上昇するエネルギー——を指すが、Rolling Stone の Joe McEwen は当時この曲を「シンプルなタンゴに控えめなファンクの土台とカウベルの連打を添えたもの」と評した。歌は東を向きながら、リズムの骨格はアルゼンチンだと書かれていたわけだ。
このほか1978年には「Jupiter」(英国41位)と「Magic Mind」(英国54位)がシングルになった。前者は AllMusic の Alex Henderson が「最もハードなファンク」と評した曲だ。
数字で見る『All ‘n All』
| 項目 | 成績 |
|---|---|
| Billboard 200 | 3位(1977年) |
| Top Soul Albums | 1位 |
| UK Albums | 13位 |
| Oricon(日本) | 14位 |
| RIAA 認定 | 3×プラチナ(300万枚) |
| 英国 BPI / カナダ / オランダ | シルバー / ゴールド / ゴールド |
| グラミー(1979年2月) | Best R&B Vocal Performance by a Duo, Group or Chorus(アルバム)/ Best R&B Instrumental Performance(Runnin’) |
| シングル | 発売 | Hot 100 | Hot Soul Songs | UK |
|---|---|---|---|---|
| Serpentine Fire | 1977年10月 | 13位 | 1位(7週) | — |
| Fantasy | 1978年1月 | 32位 | 12位 | 14位 |
| Jupiter | 1978年4月 | — | — | 41位 |
| Magic Mind | 1978年7月 | — | — | 54位 |
数字だけ見れば前作『Spirit』の延長にある成功だが、シングルの表は別のことも示している。米国で最も売れた曲と、後世に最も残った曲が一致していない。
長岡秀星のアブ・シンベル──絵だけが別の大陸を向いた理由
ジャケットは日本人イラストレーター長岡秀星(Shusei Nagaoka)によるもので、彼と Maurice White の最初の仕事だった。ブリティッシュ・コロンビア大学アジア図書館の展示解説によれば、ゲートフォールドの作品名は「太陽神」。アブ・シンベル大神殿を正面に据え、裏側では未来都市と発射されるロケット群へ景色が変わる。
この共同作業は『I Am』(1979)、『Raise!』(1981)、『Powerlight』(1983) へ続き、ピラミッドと宇宙船という EW&F の視覚的記号を決定づけた。
つまり本作は、音の材料を南米で拾い、絵の材料をエジプトと宇宙に求めた作品である。両者をつなぐのは、どちらも White が「ロサンゼルスの外」へ探しに行ったという一点だけだ。ジャンルを混ぜること自体は前作までに済んでいた。新しかったのは、材料をどこから持ってくるかという発想の広さのほうだった。
『All ‘n All』の先にあるもの──AOR の側から
本作に、のちに AOR の中枢に立つ David Foster の名はまだない。Foster が EW&F と組むのは次作『I Am』(1979) の「After the Love Has Gone」からだ。同じ年、Foster は自身のプロジェクト Airplay も動かしており、EW&F のホーン隊 Phenix Horns と Jerry Hey の仕事が、Toto『IV』を含む80年代の AOR 制作へ広がっていくのもこの延長線上だ。
だからこそ『All ‘n All』は、AOR 的な洗練が入る「直前」の姿を記録している。Stepney を失い、まだ Foster と出会う前の White が、外から材料を集めて自分の手で組んだ一枚。AOR 名盤100選のような文脈で EW&F を聴くなら、『I Am』の隣にこの1枚を置いて、何が加わり何が消えたのかを比べてみるのがいい。そして旅の痕跡をたどるなら、「Runnin’」から「Brazilian Rhyme」へ切れ目なく続く B面の約7分を通して聴くこと。del Barrio の曲が Nascimento のメロディに接続される瞬間が、このアルバムの背骨である。
参考資料
- Wikipedia (en) — All ‘n All(チャート・認定・クレジット)
- AllMusic — Earth, Wind & Fire『All ‘N All』(トラックリスト・作曲者・レビュー)
- Discogs — All ‘N All マスター・リリース(オリジナル LP の曲順・品番)
- UBC Asian Library — Space Fantasy: Nagaoka Shusei(ジャケット制作の経緯)
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