映画版はデモだった──Survivor『Eye of the Tiger』(1982)

Eye of the Tiger - Survivor レビュー
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映画『ロッキー3』の冒頭、Sylvester Stallone がリングで殴り合う3分間に鳴っている「Eye of the Tiger」は、デモ・テープである。1982年2月1日、Survivor がシカゴで急ごしらえで録った音源を、Stallone は聴いた瞬間に本番用として採用してしまった。バンドの「これはデモだ」という説明に返ってきたのは、「デモって何だ」だったという。

だから同年6月8日に Scotti Brothers から出たアルバム『Eye of the Tiger』に収められた同名曲は、映画のものとは別のテイクだ。ロサンゼルスの Rumbo Recorders で録り直され、4分04秒のアルバム版と3分45秒のシングル版に仕上げられた。「映画で鳴っている音」と「レコードで鳴っている音」の分かれ目を軸に、9曲38分のアルバムを読み直してみたい。

前作『Premonition』(1981) は Billboard 200 で82位。それが翌年、Hot 100 で6週連続1位のシングルを抱えて2位まで駆け上がる。ただしアルバムは1位に届かず、RIAA 認定はプラチナ止まり。この落差もまた、二つのテイクの話と同じくらい、この作品の性格をよく表している。

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Survivor - Eye of the Tiger (Official HD Video)
目次

「デモって何だ」——1982年2月1日、シカゴ

起点は Scotti Brothers の共同創業者 Tony Scotti にある。Scotti は Stallone の弟 Frank Stallone とも契約しており、その縁で Stallone は Survivor の1981年のシングル「Poor Man’s Son」(Hot 100 33位)を耳にした。Stallone は当初 Queen の「Another One Bites the Dust」を使うつもりで、バンドに届いたVHSにも実際にその曲が当てられていたが、許諾が得られず、「同じ拍で走る曲」を Survivor に求めた。

Jim Peterik と Frankie Sullivan は、映像のパンチの間隔に合わせてコードが切り替わるリフを組み立て、題名は Apollo Creed の台詞「eye of the tiger」から取った。

デモは2月1日、Chicago Recording Company で録音された。Sullivan はヘッドが折れて接着し直した Les Paul を 50W の Marshall に直結して弾いている。Stallone はこのデモをそのまま映画に使うと言い張り、Sullivan がテープの飽和で音を太くする手法を説明しながらフェーダーを上げると、「それだ、プリントしろ」と決めた。

録り直しの場所は「キャプテン」のスタジオだった

アルバムの録音は、ロサンゼルス郊外 Canoga Park の Rumbo Recorders で行われた。1977年に Captain & Tennille の Daryl Dragon と Toni Tennille が設立したスタジオで、Survivor は前作『Premonition』からここを使っている。しかも Dragon 本人がアディショナル・キーボードとして参加し、シンセサイザーに加えて当時出たばかりのサンプラー E-mu Emulator を弾いている。「Love Will Keep Us Together」の “キャプテン” が、ボクシング映画のアンセムの裏でサンプラーを操作していたのである。

バッキング・ヴォーカルの Fergie Frederiksen は、2年後に Toto『Isolation』(1984) のリード・ヴォーカルとなる。エンジニアの Mike Clink は後に Guns N’ Roses『Appetite for Destruction』(1987) を手がける。自己プロデュース作ながら、周囲を固めた人材は一線級だった。

  • バンド: Dave Bickler (vo) / Frankie Sullivan (g, backing vo) / Jim Peterik (p, B3 org, g, backing vo) / Stephan Ellis (b) / Marc Droubay (ds)
  • 客演: Daryl Dragon (key, synth, E-mu Emulator) / Fergie Frederiksen (backing vo)
  • 制作: プロデュース Sullivan & Peterik / エンジニア Phil Bonanno, Mike Clink / マスタリング Doug Sax (The Mastering Lab)
  • 収録: 全9曲 38分11秒。作曲は全曲 Peterik & Sullivan、「The One That Really Matters」のみ Peterik 単独

三つの「Eye of the Tiger」——映画・シングル・アルバム

映画本編で鳴っているのは2月1日のデモ。5月のシングルは Rumbo での再録音を3分45秒に詰めたもので、B面にはアルバム未収録の「Take You on a Saturday」が入っている。そしてアルバムのA面1曲目が、4分04秒のフル・ヴァージョンだ。

ヴァージョン録音長さ備考
映画『ロッキー3』本編1982年2月1日 / Chicago Recording Company—デモ音源をそのまま使用
シングル(1982年5月)Rumbo Recorders で再録音3:45B面「Take You on a Saturday」はアルバム未収録
アルバム A-1(1982年6月8日)Rumbo Recorders で再録音4:04フル・ヴァージョン

アルバム版は、デモの荒さを整え、Bickler の声を前に出した「レコードとしての完成形」だ。映画で覚えた音を期待して針を落とすと、最初の数小節で「何かが違う」と感じる。その違和感が、このアルバムの入口である。

6週の1位を抱えて、2位で止まったアルバム

シングルは1982年7月24日付で Hot 100 の1位に立ち、8月28日付まで6週連続で頂点を守った。トップ10には15週連続で留まり、Billboard の年間チャートで2位、Cash Box の年間で1位。同年8月には RIAA から200万枚のダブル・プラチナ認定を受けた。英国でも4週連続1位で95万6千枚、年間3位。

それでもアルバムは Billboard 200 で2位止まりだった。1982年夏の頂点は Asia のデビュー作と Fleetwood Mac『Mirage』が分け合っており、Survivor はその壁を越えられなかった。RIAA 認定はプラチナ(100万枚)——シングルの半分である。

作品Hot 100 / Billboard 200その他の主要チャート認定
『Eye of the Tiger』(アルバム)Billboard 200 2位カナダ 4位 / ノルウェー 3位 / 英国 12位 / 日本(オリコン)17位RIAA プラチナ / カナダ・豪州 プラチナ
Eye of the Tiger(1982年5月)Hot 100 1位(6週)Top Tracks 1位 / 英国 1位(4週)/ 豪州 1位RIAA 2×プラチナ(1982年8月)
American Heartbeat(1982年9月)Hot 100 17位16週チャートイン—
The One That Really Matters(1983年1月)Hot 100 74位——

Peterik が付けたかったアルバム名

Peterik は自伝『Through the Eye of the Tiger』で、本作を「The One That Really Matters」と名付けたかったと明かしている。全9曲のうち Peterik が単独で書いたのはその1曲だけで、他の8曲はすべて Sullivan との共作。書き手にとっての「本当に大事な曲」と、世間にとっての「本当に大事な曲」が、同じアルバムの中でずれていた。

American Heartbeat(B面3曲目)

9月にシングル化され、11月20日付で Hot 100 の17位まで上がった第2弾。リフとハイトーンとシンセが三層で重なる構造は、タイトル曲の設計を別の題材に移植したものだ。この曲が16週にわたってチャートに留まったことが、アルバムをプラチナまで押し上げた。

The One That Really Matters(A面4曲目)

1983年1月に第3弾シングルとして切られ、74位。ピアノと12弦ギターの導入からサビで一気に開く構成は、Peterik が 38 Special に提供した曲群と同じ手つきである。本作でいちばんメロディに体重が乗っているのはこの曲だ。

Ever Since the World Began(B面2曲目)

本作からはシングル化されなかったが、後年もっとも多く他人に歌われた曲。Styx の Tommy Shaw が1987年のソロ作『Ambition』で取り上げて Hot 100 75位、1989年には Bickler の後任 Jimi Jamison が Stallone 主演の映画『Lock Up』のために再録音した。

残りの5曲——「タイトル曲だけの作品」なのか

AllMusic の Greg Prato は本作を3.5点とし、「タイトル曲と同じ高さに達している曲はない」と書いた。ただ「Feels Like Love」のポップな軽さ、「Hesitation Dance」でのシンセの前景化、「Children of the Night」の重心の低いギター、「Silver Girl」「I’m Not That Man Anymore」の抑制されたヴォーカルと、書き分けの幅はむしろ広い。1曲のために買われたアルバムが、書き手の引き出しの見本帳になっている。

1983年春、二つの授賞式で起きたこと

1983年2月の第25回グラミー賞で、「Eye of the Tiger」は Best Rock Performance by a Duo or Group with Vocal を受賞した。Song of the Year にもノミネートされたが、Willie Nelson の「Always on My Mind」に譲っている。4月の第55回アカデミー賞では歌曲賞にノミネート——『ロッキー3』が受けた唯一のノミネート——ものの、「Up Where We Belong」に敗れた。「演奏」としては最高の評価を得て、「楽曲」としては二度とも次点——評価されたのは、Stallone が「プリントしろ」と言ったあの音の圧そのものだった。

同じスタジオ、同じ手順、違う結果——『Caught in the Game』へ

Survivor は1983年9月、同じ Rumbo Recorders で同じ体制(Dragon の客演も含む)の次作『Caught in the Game』を出す。結果は Billboard 200 で82位——『Premonition』と同じ順位まで戻ってしまった。REO Speedwagon とのツアーの後に Bickler は脱退し、1984年に Jimi Jamison が加入。Jamison 時代のバンドは『ロッキー4』の「Burning Heart」(1985) で再び映画とともに浮上する。本作は「映画が呼び、バンドが応える」という Survivor の型が最初に完成した1枚だった。

映画の記憶を一度外して聴く

本作に向き合うなら、映画の記憶を脇に置いて、A面1曲目から「The One That Really Matters」までを続けて聴くことを勧めたい。再録音版をデモとの違いを意識しながら通し、Peterik の「本当に大事な曲」に着地する——A面前半はそういう対話として組まれている。

AOR の文脈では、同じ1982年夏に Billboard 200 の頂点にいた Asia『Asia』 との対比が分かりやすい。前年の Foreigner『4』 が Mutt Lange の手で組み上げた「壁のような音」、Journey『Escape』 の「歌で押すアリーナ」に対して、Survivor は「リフを映像の拍に合わせる」という第三の方法を持ち込んだ。俯瞰には AOR 名盤100選 もあわせて参照してほしい。

参考資料

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本記事は、AORBreeze(aorbreeze.com)が独自に執筆したオリジナルレビューです。本記事中の Amazon/music.jp へのリンクには、アフィリエイトプログラムによる紹介を含みます。

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この記事を書いた人

AORBreeze運営者。Boz Scaggs、Steely Dan、TOTO、Bobby Caldwellを原体験に、70〜80年代のAOR・ヨットロック・シティポップ・フュージョンを聴き続けているリスナー。David FosterやJay Graydonら西海岸セッション人脈に注目し、参加ミュージシャン視点でアルバムを掘り下げています。

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