『Leftoverture』というタイトルは、leftover(余りもの)と overture(序曲)を繋いだ造語である。1976年10月21日に Kirshner Records から出た Kansas の4作目は、このふざけた題名のとおり、余りものから始まった。リード・ヴォーカルの Steve Walsh はリハーサル初日に「曲が1本もない」と告げ、ギタリストの Kerry Livgren が一人で穴を埋めることになった。
そして本当に最後の最後、トピーカを発つ夜に Livgren が持ち込んだ1曲が、アルバムの開幕曲になり、バンド初の全米トップ40ヒットになり、半世紀後にも鳴り続ける看板曲になった。「Carry On Wayward Son」である。余りものの序曲が、本体を食ってしまった——この記事は、その順序を追いかける。
Billboard 200 で5位、RIAA 認定4×プラチナ。前作『Masque』(1975) の最高位は70位だった。
🎵 開幕の1曲を流してから
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リハーサル初日、持ち曲はゼロ
それまでの Kansas は、Walsh と Livgren の2人がほぼ半々で曲を持ち寄るバンドだった。ところが4作目の準備段階で Walsh の筆が止まる。Livgren は後年、そうした重圧は好まないが、結果的に自分の一番良いところを引き出した、と振り返っている。
当時の Kansas の拠点はすでにアトランタに移っていたが、新作の曲作りのために一行は故郷トピーカへ戻った。Livgren は滞在先の両親の家にあった Lowrey のオルガンで曲を組み立て、バンドはショッピングモールの空き店舗を借りてそれを合わせた。この時点で Walsh の名前が残ったのは「The Wall」「Questions of My Childhood」の共作と、全員名義の「Magnum Opus」の3曲だけである。8曲中5曲が Livgren 単独作という配分は、前3作にはなかった偏りだった。
「これは聴いておいたほうがいい」——最後の夜の1曲
ドラマーの Phil Ehart の記憶では、リハーサルを終えてルイジアナのスタジオへ発つ荷造りの最中に、Livgren が「もう1曲ある」と口にした。Livgren 自身の言葉では、トピーカ最後の夜だったという。彼は仲間に「これは聴いておいたほうがいい」と前置きして曲を通し、メンバーは顔を見合わせて「やるしかない」と即決した。
曲は「Carry On Wayward Son」。Livgren は前作『Masque』のラストを飾った「The Pinnacle」の続編として書いたと説明している。Ehart は後に、本当に最後の最後に出てきた曲で、6分近い長さだったからヒットするとは思わなかった、と語っている。
ところが1976年12月、ツアー先でマネージャーから「信じないだろうが、うちにヒット曲がある」と告げられる。アルバム発売後に FM 局が競って回し始め、11月には5分超の本編を3分半に詰めたシングルが切られていた。Hot 100 には1976年12月25日付で86位に初登場、7週かけてトップ40に入り、1977年4月2日付で最高11位。カナダでは5位、英国では51位——英国で Kansas がチャートに入った唯一の曲でもある。
沼地のスタジオと、元バンド仲間のプロデューサー
録音はルイジアナ州 Bogalusa の Studio in the Country。前作『Masque』と同じ場所で、名前どおり松林の中にある。Livgren はラジオ番組『In the Studio with Redbeard』で、スタジオを出るとワニがいて、蚊は B-52 並みの大きさで、時にはアルマジロがコントロールルームに走り込んできた、と語っている。
プロデュースは Jeff Glixman と Kansas の連名。Glixman は Ehart や Dave Hope が Kansas 以前に組んでいた White Clover の元メンバーで、『Masque』から『Two for the Show』(1978) まで単独でプロデュースを担った。エンジニアは Bill Evans、マスタリングはニューヨークの Sterling Sound で George Marino が担当している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| リリース | 1976年10月21日 / Kirshner(米国)、Epic(欧州・日本) |
| 録音 | Studio in the Country(Bogalusa, Louisiana) |
| プロデュース | Jeff Glixman, Kansas |
| エンジニア / マスタリング | Bill Evans / George Marino(Sterling Sound, NYC) |
| メンバー | Steve Walsh (vo, key) / Kerry Livgren (g, key, synth) / Robby Steinhardt (vln, vla, vo) / Rich Williams (g) / Dave Hope (b) / Phil Ehart (ds) |
| 収録時間 | 43:55(全8曲) |
174位、57位、70位、そして5位
Don Kirshner のレーベルと契約して以来、Kansas はツアーで少しずつ聴衆を増やしてきたが、数字は地味だった。デビュー作『Kansas』(1974) の Billboard 200 最高位は174位。『Song for America』(1975) で57位、『Masque』で70位。そこから『Leftoverture』が5位へ跳ね、続く『Point of Know Return』(1977) が4位でそれを上回る。
| アルバム | 発売 | Billboard 200 最高位 | RIAA |
|---|---|---|---|
| Kansas | 1974年3月 | 174位 | ゴールド(1995年) |
| Song for America | 1975年2月 | 57位 | ゴールド(1980年) |
| Masque | 1975年9月 | 70位 | ゴールド(1977年) |
| Leftoverture | 1976年10月 | 5位 | 4×プラチナ(1995年5月24日) |
| Point of Know Return | 1977年10月 | 4位 | 4×プラチナ |
この跳躍は前3作も引き戻し、『Masque』は1977年12月、『Song for America』は1980年、デビュー作も1995年にゴールドに達した。序曲が後から本編を売った、と言ってもいい。カナダでは本作はアルバム・チャート2位、1978年にプラチナ認定を受けている。
序曲の後ろに並ぶ7曲
「Carry On Wayward Son」の陰に隠れがちだが、残る7曲は Livgren が「クラシック由来の複雑さ」を手放さずに書いた曲群である。
The Wall(4:51)
Livgren と Walsh の共作で、3つのヴァースと器楽パートで組まれたパワー・バラード。Walsh の歌唱は発売直後の新聞評で「非の打ちどころがない」と書かれ、後年の批評家ランキングでは上位の常連で、「Carry On Wayward Son」より上に置く書き手もいる。1978年の『Two for the Show』以降、ほぼすべてのライブ作品に収録されている。
Miracles Out of Nowhere(6:28)/ Cheyenne Anthem(6:55)
どちらも Robby Steinhardt がリード・ヴォーカルを取る。ヴァイオリン奏者が歌う6分超の曲が A面と B面にひとつずつ置かれているのが、このアルバムの編成上の個性だ。「Cheyenne Anthem」には子どもの声が加わり、2015年のバンド公式ドキュメンタリーは前者の題を借りて『Miracles Out of Nowhere』と名付けられた。
Magnum Opus(8:25)
メンバー6人全員の名義による組曲で、「Father Padilla Meets the Perfect Gnat」から「Gnat Attack」まで6つのパートに分かれる。アルバム題と同じく、大仰な題名を自分で茶化す構えが徹底している。Robert Christgau が「題名の自嘲が中身には一切ない」と切り捨てたのはこの点だが、裏を返せば、それだけ演奏は真顔だということでもある。
第2シングル「What’s on My Mind」(3:28、1977年5月) は Hot 100 に入らず、Cash Box で87位、カナダで89位止まり。アルバムのヒットは、開幕の1曲が引っ張ったものだった。
4×プラチナが2つ——1995年の盤と、2019年の曲
RIAA のデータベースには、この作品に関わる4×プラチナが2件ある。ひとつはアルバム『Leftoverture』で、1995年5月24日付。もうひとつはシングル「Carry On Wayward Son」で、2019年11月26日付である。シングルは1990年12月にようやくゴールド、そこから29年かけて4×プラチナに達した。
| 対象 | 認定 | 認定日 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Leftoverture(アルバム) | 4×プラチナ | 1995年5月24日 | Kansas 初の RIAA 認定作品 |
| Carry On Wayward Son(シングル) | ゴールド | 1990年12月18日 | 発売から14年後 |
| Carry On Wayward Son(シングル) | 4×プラチナ | 2019年11月26日 | ストリーミング込み |
| Carry On Wayward Son(英国) | プラチナ | 2023年 | チャート最高位は51位 |
曲の後半生を押し上げたのはテレビだった。米ドラマ『Supernatural』が、ほぼ毎シーズンの最終話でこの曲を使い続け、2020年のシリーズ最終話では女性デュオ Neoni によるカバーが流れた。トピーカ最後の夜に滑り込んだ「余りもの」は、発売から43年後に、アルバム本体と同じ認定額に並んだことになる。
「Boston と Styx の隣」——割れた評価
発売当時の評価は割れた。Rolling Stone は本作を Kansas の最高作とし、派手なソロに頼らない演奏と短く締まったメロディを持つ「新しいアメリカのバンド」として、Boston や Styx と並べて論じた。
一方で Christgau は D+ を付け、欧州のプログレッシブ・ロックにある知性と確信が欠けていると書いた。後年の AllMusic(Stephen Thomas Erlewine)も3.5点にとどめ、「Carry On Wayward Son」に匹敵する曲が他にないと突き放している。アルバム全体を推す声と、1曲だけを認める声——この温度差はいまも変わらない。AOR 名盤100選で本作をどこに置くかも、結局はこの1曲をどう扱うかで決まる。
2001年の再発と、40年後の完全再現
2001年に Legacy から出たリマスター CD には、ボーナスとして「Carry On Wayward Son」(1978年7月、ミシガン州 Clarkston の Pine Knob)と「Cheyenne Anthem」(1977年12月、ニューヨークの Palladium)のライブ音源2曲が加えられた。リマスターは Glixman 自身と Jeff Magid が手がけている。
2016年9月30日、現行ラインナップはピッツバーグから40周年ツアーを始め、翌2017年春にも12公演で全曲再現を行った。その音源を編んだ2枚組『Leftoverture Live & Beyond』は2017年11月に発売された。余りものから始まったアルバムが、40年後には1曲も削れない本編になっていた。
参考資料
- Wikipedia (en) — Leftoverture(録音・クレジット・チャート)
- RIAA Gold & Platinum — Kansas / Leftoverture(認定枚数・認定日)
- AllMusic — Kansas『Leftoverture』(評価・クレジット)
- Billboard — Kansas Chart History(チャート成績)
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