1983年2月1日、Columbia Records から出た Journey の8作目『Frontiers』は、Billboard 200 で2位、米国で600万枚(RIAA 6×プラチナ)、Hot 100 のトップ40に4枚のシングルを送り込んだ。前作『Escape』の後としても、数字の上では十分な成功である。
ところがこのアルバムは、曲順が確定しプレス直前まで進んだ段階で、2曲を外している。「Ask the Lonely」と「Only the Young」。外された2曲はそれぞれ別の映画に渡り、前者は Mainstream Rock チャートで3位、後者は2年後に Hot 100 で9位のヒットになった。『Frontiers』は、ヒット曲を2つ手放した上であの成績を出したアルバムということになる。
本稿はこの「外された2曲」を起点に『Frontiers』を読む。
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プレス直前の差し替え——A&R が持ち出した2曲
録音は1982年、カリフォルニア州バークレーの Fantasy Studios。プロデュースは『Escape』に続いて Mike Stone と Kevin Elson、マスタリングは Bob Ludwig。
曲順まで決まり、プレスの準備が整った時点で、Journey の A&R 担当 Michael Dillbeck との会議が持たれた。そこで決まったのが「Ask the Lonely」と「Only the Young」の2曲を外し、「Back Talk」と「Troubled Child」に差し替えることだった。外された2曲は映画のサウンドトラックに回された。この経緯は2005年のボックスセット『Time3』のブックレットに記されている。
この時期の Journey には他にも「別の場所へ行った曲」がある。1982年の映画『Tron』に提供した「Only Solutions」で、アルバムとは別に映画向けの曲が常に動いていた。
手放した2曲のその後——『Two of a Kind』と『Vision Quest』
「Ask the Lonely」(Perry / Cain 作)は1983年の映画『Two of a Kind』のサウンドトラックに収録され、1984年1月に Mainstream Rock チャートで3位に達した。1988年の『Greatest Hits』にも収められている。
「Only the Young」(Perry / Schon / Cain 作)の経路は複雑だ。まずニューヨークのバンド Scandal に渡り、1984年の『Warrior』で先に商業リリースされた。Journey 自身の録音は1985年の映画『Vision Quest』に入り、1985年1月7日にシングル化、3月に Hot 100 で9位、Mainstream Rock で3位。外れて2年後、他人のバージョンが先に出た後のトップ10入りである。
| 楽曲 | 作者 | 行き先 | チャート成績 |
|---|---|---|---|
| Ask the Lonely | Perry / Cain | 映画『Two of a Kind』サントラ(1983) | Mainstream Rock 3位(1984年1月) |
| Only the Young | Perry / Schon / Cain | Scandal『Warrior』(1984)→ 映画『Vision Quest』サントラ(1985) | Hot 100 9位 / Mainstream Rock 3位(1985年3月) |
| Back Talk(差し替えで収録) | Perry / Cain / Smith | 『Frontiers』B面3曲目 | シングル化なし |
| Troubled Child(差し替えで収録) | Perry / Schon / Cain | 『Frontiers』B面2曲目 | シングル化なし |
残った10曲の性格——『Escape』の再演を拒む
Steve Perry は当時、「Back Talk」や「Edge of the Blade」が『Escape』を思い出させるとは誰にも言えないはずだ、挑戦を続けなければならない、という趣旨の発言をしている。差し替えで入った「Back Talk」を Perry 自身が「前作と違うもの」の例に挙げているのは示唆的で、外された2曲の穴をバンドはより硬質な曲で埋めた。
結果として『Frontiers』は、「Separate Ways (Worlds Apart)」のシンセ・リフに始まり、B面に「Edge of the Blade」「Frontiers」「Rubicon」とハード寄りの曲が並ぶ、前作より暗く重心の低いアルバムになった。Cain は1曲目で Roland Jupiter-8 を使っており、AllMusic の Mike DeGagne が「キーボードが Schon のギターと Perry の歌を覆っている」と評したのはこの音像のことだ。
批評は割れた。Rolling Stone の J. D. Considine は5点満点で2点、「ある意味でバンドのもっとも保守的な作品」。Robert Christgau は D+。一方 AllMusic は肯定的で、2008年には Classic Rock の Paul Elliott が「Faithfully」を「史上最高のパワー・バラード」と呼んだ。
『Thriller』の後ろで9週——数字で見る『Frontiers』
アルバムは Billboard 200 で2位止まりだった。1983年2月26日付から17週連続で1位を占めたのは Michael Jackson『Thriller』で、『Frontiers』はその後ろで9週2位に留まった(Songfacts)。英国では6位で、Journey の全アルバム中最高の英国順位である。
| 作品 | Billboard 200 / Hot 100 | Mainstream Rock | 備考 |
|---|---|---|---|
| 『Frontiers』(アルバム) | Billboard 200 2位 | — | 『Thriller』の後ろで2位を9週 / RIAA 6×プラチナ / 英国6位 |
| Separate Ways (Worlds Apart) | 8位 | 1位(4週) | 1983年1月4日先行シングル |
| Faithfully | 12位 | — | 1983年4月発売 / 米国プラチナ認定 |
| After the Fall | 23位 | 30位 | 1983年7月発売 / 12週チャートイン |
| Send Her My Love | 23位 | — | 1983年9月発売 / 11月に23位 |
4枚のシングルを、書かれた場所から読む
Separate Ways (Worlds Apart)
Cain と Perry が1982年の『Escape』ツアー中に舞台裏で作った曲で、ある晩にメロディが、翌日の午後に歌詞が仕上がった。Hot 100 で8位、Mainstream Rock では4週1位。ニューオーリンズの Louisa Street Wharf で撮られたビデオは、存在しない楽器を弾く真似をする演出で語り草になった。2022年には『Stranger Things』シーズン4のリミックスに Perry 自身が参加した。
Faithfully
Cain の単独作。サラトガ・スプリングスへ向かう車中で冒頭の1行をナプキンに書き、翌日 Saratoga Performing Arts Center の舞台裏のグランド・ピアノでおよそ30分で書き上げ、その会場で初演された。後に Prince が「Purple Rain」との類似を気にして電話をかけ、Cain は「同じ4つのコードを使っているだけ」と答えたという。米国でプラチナ認定。
After the Fall
Perry / Cain 作、1983年7月発売で Hot 100 23位。ベースを弾いているのは Ross Valory ではなく Randy Jackson で、Journey の音源に Jackson が参加した最初の例。Jackson は次作『Raised on Radio』(1986)に正式参加し、2020年に再び加わる。
Send Her My Love
1983年9月発売、11月に23位。Perry / Cain 作の静かなバラードで、A面2曲目で「Separate Ways」の緊張を解く。
差し替えで入った側——B面の4曲
A面3曲目「Chain Reaction」はシングルにならなかったがロック・ラジオで流れた。B面は「Edge of the Blade」「Troubled Child」「Back Talk」「Frontiers」「Rubicon」と続き、「Back Talk」と「Frontiers」には Steve Smith が作者としてクレジットされている。差し替え作業がバンド全体の持ち寄りで行われたことがうかがえる。
「Back Talk」は3分20秒と本作最短で、外された「Only the Young」(4分20秒)よりちょうど1分短い。総時間は44分24秒。「Faithfully」でA面を閉じ「Edge of the Blade」でB面を開く落差は、差し替えがなければもう少し穏やかだったはずだ。
2006年、外された2曲が戻ってきた
外された2曲が『Frontiers』の盤に収まるまで23年かかった。2006年の CD 再発で「Only the Young」「Ask the Lonely」に加え、『Time3』の「Liberty」、『Tron』の「Only Solutions」の計4曲が追加され、1982年前後の素材がひとまとめになった。
- オリジナル LP(1983年2月1日 / Columbia):10曲 44分24秒
- 2006年 CD 再発:上記10曲+「Only the Young」「Ask the Lonely」「Liberty」「Only Solutions」
- 録音:1982年 / Fantasy Studios。プロデュース Mike Stone, Kevin Elson。マスタリング Bob Ludwig
- バンド:Steve Perry (vo) / Neal Schon (g) / Jonathan Cain (key, g) / Ross Valory (b) / Steve Smith (ds)。客演 Randy Jackson (b: After the Fall)
JFK Stadium の8万人と、その後の分岐
ツアーは日本から始まり、北米では Bryan Adams が前座を務めた。NFL Films のドキュメンタリー『Frontiers and Beyond』には、フィラデルフィアの JFK Stadium に8万人以上を集めた公演が収められている。ツアー後バンドは休止し、Perry は1984年にソロ作『Street Talk』を出した。Ross Valory の名がクレジットに戻るのは1996年『Trial by Fire』である。
『Frontiers』は『Escape』と同じ5人が同じプロデューサーと作った最後の作品であり、外へ出ていく曲と入ってくる人(Randy Jackson)が交差した作品でもある。『Escape』を「完成」とするなら、本作は完成した形が動き始める瞬間を記録している。AOR 名盤100選でも同じ年の作品と並べている。
聴き方をひとつ。2006年盤で「Faithfully」の後に「Only the Young」と「Ask the Lonely」を挟み、「Edge of the Blade」に進む。外された2曲が入っていた場合の『Frontiers』と、外したことで何が際立ったかが、順番を変えるだけで聞こえてくる。
参考資料
- Wikipedia — Frontiers (Journey album)(差し替えの経緯・クレジット・再発情報)
- AllMusic — Journey『Frontiers』(レビュー・チャート)
- RIAA Gold & Platinum Database(認定枚数)
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