Eagles の6作目『The Long Run』は、当初2枚組として構想された。ところが1978年3月に始まった録音は18か月に及び、マイアミとロサンゼルスの5つのスタジオを渡り歩いた末に、1979年9月24日に世に出たのは10曲・42分50秒の1枚組だった。理由は曲が足りなかったからで、Don Henley は録音開始時のバンドを「完全に燃え尽きていた」と振り返っている。
面白いのは、その10曲の中核が Henley と Glenn Frey の共作という Eagles の生産ラインの外から来たことだ。新加入のベーシストが持ち込んだ未完成の曲。映画のために書かれた Joe Walsh の曲。旧友との電話で生まれたサビ。外から来た素材が3枚のシングルのうち2枚を担い、残る1枚は「時代遅れ」と書いた記事への返答として書かれた。本稿は、何が削られ、何が外から補われ、どんな数字が残ったのかを追う。
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18か月・5つのスタジオ——録音データが示す「長さ」
録音データは以下の通り。前作から続投した Bill Szymczyk の拠点であるマイアミ周辺と、ロサンゼルスの4スタジオが混在しており、ひとつの場所で腰を据えて作られた作品ではない。
| リリース | 1979年9月24日 / Asylum Records(米国盤 5E-508) |
| 録音期間 | 1978年3月〜1979年9月(約18か月) |
| スタジオ | Criteria、Bayshore(マイアミ周辺)/ One Step Up、Love ‘n’ Comfort、Britannia、Record Plant(ロサンゼルス) |
| プロデュース | Bill Szymczyk(Eagles は共同プロデューサー名義) |
| バンド | Don Henley (vo, ds) / Glenn Frey (vo, g, key) / Don Felder (g) / Joe Walsh (vo, g, key) / Timothy B. Schmit (vo, b) |
| 客演 | Bob Seger (bv、ライナー未記載) / David Sanborn (as) / Jimmy Buffett & The Monstertones (bv) / Joe Vitale (p, ep) |
Henley と Frey の2人だけで書いた曲は「The Long Run」「King of Hollywood」「The Greeks Don’t Want No Freaks」の3曲にすぎず、残る7曲には Felder、Walsh、Schmit、JD Souther、Bob Seger、Barry De Vorzon のいずれかが加わっている。人脈を総動員した痕跡が、クレジットの並びに出ている。
最初に完成した曲は、いちばん新しいメンバーが持ってきた
Randy Meisner は1977年のツアー中に脱退し、後任には Poco の Timothy B. Schmit が迎えられた。Schmit は1969年に Poco でも Meisner の後任だった人物で、加入直後に持ち込んだ未完成の曲が「I Can’t Tell You Why」だった。
I Can’t Tell You Why(4:56)
1978年3月に録音され、アルバムのために最初に完成した曲がこれである。18か月の長い道のりは、在籍歴の最も浅いメンバーの曲から始まった。Schmit の骨格に Frey が「カントリー・ロックではなく R&B でやろう」と方向を定め、Henley と3人で仕上げた。ギター・ソロは Felder でも Walsh でもなく Frey 自身が弾いている。ミックスの席で Henley が Schmit に「これが君の最初のヒットだ」と言ったという逸話は、結果として正しかった。1980年2月4日にシングル化され、Hot 100 で8位、Adult Contemporary で3位。Eagles が Hot 100 のトップ10に入った最後の曲となる。
Boz Scaggs『Silk Degrees』(1976) 以降のロック側からソウル・バラードへの接近を、ハーモニー主体のバンドが採用した例として、この曲はもっとも広く聴かれた。
電話で届いたサビ——「Heartache Tonight」と友人たち
先行シングル「Heartache Tonight」の作者は Henley、Frey、Bob Seger、JD Souther の4人。発端は Frey 宅で Souther と Sam Cooke のレコードを聴きながらのジャムだった。最初のヴァースができたところで Frey は、デトロイト時代からの先輩にあたる Seger に電話をかける。Seger はその場でサビを思いつき、電話口で歌って聞かせた——というのが両者の証言だ。同じ晩に Walsh がブリッジを足し、Henley と Souther が仕上げた。
Heartache Tonight(4:27)
Frey のリード・ヴォーカルに Walsh のスライド。Seger 本人もバッキング・ヴォーカルで参加しているが、ライナーノーツにその名はない。1979年9月18日に発売され、11月10日付の Billboard Hot 100 で1位(1週)。Eagles にとって5曲目にして最後の全米1位で、1980年2月27日の第22回グラミー賞で Best Rock Performance by a Duo or Group with Vocal を受賞した。
Eagles 最後の1位曲が「バンドの外の2人」を作者に含む点は見逃せない。Souther は本作で「Teenage Jail」「The Sad Café」にも名を連ねている。
映画から戻ってきた曲、ソロへ流れた曲
「In the City」(3:46) は Walsh と Barry De Vorzon の共作で、もともと1979年の映画『The Warriors』のサウンドトラック用に Walsh 名義で録音されたものだ。Eagles はそれを本作のために録音し直し、シングルにはならなかったが AOR ラジオの定番曲になった。「Eagles のために書かれた曲」ではなく「Eagles が外から引き取った曲」である。
一方で、削られた曲の行方も追える。ボツ素材の一部は『Selected Works: 1972–1999』に「Long Run Leftovers」として収められた。Walsh は削られた2曲——『There Goes the Neighborhood』(1981) の「Rivers (of the Hidden Funk)」と『You Bought It, You Name It』(1983) の「I Told You So」——をソロ作で完成させ、いずれも Felder が曲を書きギターでも参加した。本作に残った Felder の作曲クレジットは「The Disco Strangler」「Those Shoes」の2曲だけで、2枚組なら収まっていたはずの曲がバンドの外へ出ていった形になる。
「時代遅れ」への返答——ディスコとパンクの狭間で
1978〜79年、チャートの主役はディスコで、パンクが台頭していた。Eagles を「過去のもの」と書く記事もあったと Henley は語り、タイトル曲「The Long Run」(3:42) はその論調への返答として書かれた。Henley 自身が皮肉だと認めているのは、長く続くことを歌う当のバンドが、続編の重圧の下で崩れかけていた点だ。音はメンフィスの R&B を下敷きにしたシャッフルで、Felder のハモンド・オルガンが支える。1979年11月27日発売、Hot 100 で8位、Adult Contemporary で10位。
ディスコへの反応はもっと直接的な形でも現れる。「The Disco Strangler」(2:46) は Felder が四つ打ちのビートを土台に書き、Henley が歌詞を乗せた曲で、ディスコへの「解毒剤」として意図された。「The Greeks Don’t Want No Freaks」(2:21) は「96 Tears」のような60年代フラット・ロックへのオマージュで、Jimmy Buffett がコーラスに加わる。批評が最も割れるのがこの一群で、AllMusic の William Ruhlmann は「3年どころか3時間もかかっていないように聞こえる」と手厳しい。
数字は「縮小」を裏切った——チャートと認定
1枚組に縮み、批評も割れたアルバムだが、商業的な結果は別の物語を語っている。Billboard 200 に2位で初登場し、翌週に1位、そのまま9週連続で首位を守った。1979年の年間チャートで2位。英国とカナダでも1位に達した。
| 作品 | 発売日 | Hot 100 | Adult Contemporary | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 『The Long Run』(アルバム) | 1979年9月24日 | Billboard 200 1位(9週) | — | RIAA 7×プラチナ / 英国・カナダ1位 |
| Heartache Tonight | 1979年9月18日 | 1位(1979年11月10日付) | — | グラミー賞受賞 / RIAA プラチナ |
| The Long Run | 1979年11月27日 | 8位 | 10位 | 英国34位 |
| I Can’t Tell You Why | 1980年2月4日 | 8位 | 3位 | Eagles 最後のトップ10 |
RIAA 認定は1980年2月1日にプラチナ、2001年3月20日に7×プラチナ。縮小したアルバムの売上としては異例で、それを牽引した2枚のシングルは外から持ち込まれた曲だった。
最後に置かれた店——「The Sad Café」と閉店の挨拶
最後に置かれた「The Sad Café」(5:35) は Henley、Frey、Walsh、Souther の共作。題材はハリウッドの Troubadour と、バンドが通ったレストラン Dan Tana’s で、Henley はひとつの時代が過ぎていくのを感じていた、Troubadour に集まる顔ぶれも出演するバンドも変わりつつあった、と説明している。David Sanborn のアルト・サックスと Felder のアコースティック・ギターのソロが、10曲の中で唯一、急がない時間を作る。
この曲が原メンバー期最後のスタジオ作の最後の曲になったことは、後から振り返るからこそ意味を帯びる。バンドは1980年7月31日のロングビーチ公演を最後に活動を止め、同年11月の『Eagles Live』のライナーノーツには「Thank you and goodnight」の一行だけが残された。次のスタジオ作『Long Road Out of Eden』まで、28年が空く。
削られたからこそ見える聴き方
「Hotel California の次」として聴くと、足りないものを数えることになる。代わりに「外から来た3曲」——「I Can’t Tell You Why」「Heartache Tonight」「In the City」——を先に続けて聴いてみてほしい。出自の違う3曲が同じ5人の声で束ねられている。そのあとでタイトル曲と「The Sad Café」を聴けば、内側から書かれた曲がどれだけ「終わり」を意識していたかが対比で浮かび上がる。AOR 名盤100選の文脈で本作を挙げる理由は、10曲の完成度ではなく、この外と内の温度差がそのまま1979年の西海岸の記録になっているからだ。
参考資料
- Wikipedia (en) — The Long Run (album)(録音データ・チャート・認定・クレジット)
- AllMusic — Eagles『The Long Run』(レビュー・クレジット)
- RIAA Gold & Platinum Database(売上認定)
- Billboard — Eagles Chart History(チャート成績)
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