1981年7月2日にリリースされた Foreigner の4作目『4』は、Billboard 200 で10週にわたり1位を維持した。ところが、このアルバムを象徴する曲「Waiting for a Girl Like You」は、Hot 100 で10週にわたり——2位に留まり続けた。同じ「10週」という数字が、片方では頂点を、もう片方では頂点に届かなかった記録を指している。この奇妙な対称が、『4』というアルバムの性格をよく表している。
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ふたつの「10週」——チャートが記録した1981年
「Waiting for a Girl Like You」が Hot 100 の2位に留まった10週間は、1位に到達しないままトップに最も近い位置を占め続けた、同チャート史上最長の記録である。前半の9週は Olivia Newton-John「Physical」に、10週目は Hall & Oates「I Can’t Go for That (No Can Do)」に阻まれた。相手が悪かった、としか言いようがない。
一方でアルバムそのものは、Atlantic Records から出た Foreigner 作品の最高到達点となった。RIAA 認定は6×プラチナ(米国600万枚)。シングル3枚がいずれも異なる層に届いたことが、このセールスを支えている。
| 楽曲 / 作品 | Hot 100 | Mainstream Rock | 備考 |
|---|---|---|---|
| 『4』(アルバム) | Billboard 200 1位 | — | 1位を10週維持 / RIAA 6×プラチナ |
| Urgent | 4位 | 1位(4週) | 1981年夏の先行シングル |
| Waiting for a Girl Like You | 2位(10週) | — | 1位未到達での最長在位記録 |
| Juke Box Hero | 26位 | 3位 | 1982年1月シングル・カット |
6人から4人へ——引き算から始まったアルバム
『4』というタイトルは、4作目であると同時にメンバーが4人になったことを指している。前作『Head Games』(1979) の後、Ian McDonald(サックス、ギター)と Al Greenwood(キーボード)が脱退した。理由は曲作りへの関与をめぐる対立で、主導権を握りたい Mick Jones との折り合いがつかなかった。結果として本作の全曲が Jones と Lou Gramm の手に委ねられることになる。
興味深いのは、鍵盤とサックスという2つのパートを失ったバンドが、そのどちらも外部から調達して埋めた点である。シンセサイザーには当時無名の Thomas Dolby を、サックスには Motown の Junior Walker を招いた。人数を減らしたことで、かえって音の選択肢が広がるという逆説がここで起きている。
Mutt Lange の設計図——『Back in Black』の方法論をAORへ
制作は1980年9月から1981年4月、ニューヨークの Electric Lady Studios。プロデューサーに迎えられた Robert “Mutt” Lange は、前年に AC/DC『Back in Black』を成功させたばかりだった。彼がそこで確立した「壁のような音」を、Foreigner というAORの語彙に翻訳したのが本作である。
- ギターを左右に多重録音し、ステレオの空間を隙間なく埋める
- キックは前面に、スネアは深いリバーブで奥に——奥行きを人工的に作る
- リードヴォーカルにオクターブ上の”影”を重ね、声そのものに厚みを持たせる
- シンセ・パッドをギターと同格の”音響柱”として扱う
Lange の関与は音響設計だけに留まらない。「Urgent」は Lange と Jones の共作としてクレジットされており、しかもあの反復するフックは、Thomas Dolby が持ち込んだ「Urges」というデモの歌い回しを Lange が作り替えたものだった。ゲストとして呼んだ人間のアイデアを曲の中心に据えてしまう——このあたりに、後に Def Leppard や Bryan Adams を手がける プロデューサーの手つきが既に出ている。
A面——ジュークボックスの前に立つ少年
1. Night Life(3:51)── Mick Jones のリフが最初から最後まで引っ張る軽快なオープナー。アルバムの入口として機能に徹した曲で、ここで音の”広さ”の基準が提示される。
2. Juke Box Hero(4:20)── この曲には、はっきりした出所がある。Jones はある日、雨の中を5時間近く待ち続けるファンに会い、その光景から「ジュークボックスの英雄」という着想を得た。一方 Gramm には、ロチェスターの War Memorial で Jimi Hendrix の公演のチケットが買えず、会場に入れなかった記憶があった。Jones の「Juke Box Hero」と、Gramm が別に書いていた「Take One Guitar」を Lange が接合して、いまの形になっている。
入れなかった少年が、いつか壇上に立つ——構造からして、この曲は本作のテーマそのものだ。Hot 100 26位、Mainstream Rock 3位。
3. Break It Up(3:54)── 本作でもっともハード寄り。Jones のソロがアルバム中いちばんテクニカルに書かれている。
4. Waiting for a Girl Like You(4:50)── Thomas Dolby が Minimoog で組み立てた冒頭のモチーフが、この曲の顔になっている(原型となる導入部は、脱退した Ian McDonald が残したものだった)。Gramm の歌唱はキャリアを通じてもっとも抑制が効いており、Jones のギターは終始アルペジオに徹する。
シンセ・パッド/繊細なリード・ヴォーカル/控えめなギターという三点の配置は、この後の Journey「Faithfully」、REO Speedwagon「Keep On Loving You」、Heart「Alone」に至るまで、パワーバラードの設計図として反復されていく。Adult Contemporary では1位。
5. Luanne(4:13)── 軽快なシャッフル。前曲の余韻をあえて断ち切り、A面を閉じる。
B面——サックスとシンセが前に出る
6. Urgent(4:30)── Lange の「壁のような」ギター・リフの上に、Junior Walker のテナー・サックスが乗る。Walker の参加はほとんど偶然で、Foreigner が Electric Lady で録音していた時期に、彼がたまたまニューヨークで公演していた。声をかけたら引き受けた、というのが実際のところである。
Motown のサックス奏者がアリーナ・ロックのシングルでソロを吹く——1981年の時点で、この配合を思いつく人間はそう多くない。Hot 100 4位、Mainstream Rock では4週にわたり1位。
7. I’m Gonna Win(4:59)── 本作最長。Gramm のヴォーカルの振れ幅を確認するための曲と言っていい。
8. Woman in Black(4:43)── B面のハード・サイド。Gramm が押し切る。
9. Girl on the Moon(3:50)── Dolby が2曲目の仕事をした場所。本作でもっとも繊細な音像で、「Waiting for a Girl Like You」の成功が偶然ではなかったことを示す。
10. Don’t Let Go(4:35)── Jones / Gramm 共作のクロージング。「諦めない」というアルバムの主題を、アリーナの語彙で締める配置。
録音データ
| リリース | 1981年7月2日 / Atlantic Records |
| 録音 | 1980年9月〜1981年4月 / Electric Lady Studios(ニューヨーク) |
| プロデュース | Robert “Mutt” Lange, Mick Jones |
| エンジニア | Dave Wittman |
| バンド | Lou Gramm (vo) / Mick Jones (g, key) / Rick Wills (b) / Dennis Elliott (ds) |
| 客演 | Thomas Dolby (synth: Waiting for a Girl Like You, Girl on the Moon) / Junior Walker (sax: Urgent) / Mark Rivera (sax) / Ian Lloyd (backing vo) |
『4』が80年代に手渡したもの
Foreigner のディスコグラフィにおける本作の位置は明快だ。『Foreigner』(1977)、『Double Vision』(1978) で獲得した聴衆を、『Head Games』(1979) の混乱を経て、4人編成と外部プロデューサーという新しい体制で一気に拡張した——それが『4』であり、次の『Agent Provocateur』(1984) の「I Want to Know What Love Is」全米1位は、この延長線上にある。
より広く見れば、Lange がここで組み上げた音響の方法論は『Pyromania』(1983)、『Reckless』(1984) へと引き継がれ、80年代アリーナ・ロックの標準仕様になっていく。『4』はその原型が最初に完全な形で提示された作品である。
どこから聴くか
AOR としての『4』を測りたいなら「Waiting for a Girl Like You」と「Girl on the Moon」を続けて聴くのがいい。Dolby のシンセが果たした役割が、2曲並べると輪郭を持って見えてくる。バンドとしての推進力を確かめたいなら「Urgent」から「Juke Box Hero」。前者のサックス、後者の物語——同じアルバムに入っているのが不思議なくらい、性格の違う2曲である。
参考資料
- RIAA Gold & Platinum Database(売上認定)
- Billboard — Foreigner Chart History(チャート成績)
- AllMusic — Foreigner『4』(クレジット・評価)
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