1981年7月、Foreigner は通算4枚目のスタジオ・アルバム『4』を Atlantic Records からリリースした。前作『Head Games』(1979) でメンバー間の対立が表面化した彼らが、Ian McDonald と Al Greenwood の脱退を経て4人組として再編、AC/DC『Back in Black』(1980) で頭角を現したプロデューサー Robert “Mutt” Lange を起用して制作した本作は、Billboard 200 で10週連続1位、最終的に米国だけで700万枚(7倍プラチナ)を売り上げた。”Urgent” “Juke Box Hero” “Waiting for a Girl Like You” の3つのトップ20シングルを擁し、80年代アリーナAORの頂点を極めた決定盤である。
このアルバムを聴くべき3つの理由
- Waiting for a Girl Like You — 10週連続 Billboard Hot 100 2位を記録(1位を阻んだのは Olivia Newton-John “Physical”)。パワーバラードの完成形を定義
- Mutt Lange の音響プロダクション。AC/DC で確立した “壁のような音” を、アリーナAORの語彙で再構築
- Junior Walker のサックス・ソロ (Urgent)、Thomas Dolby のシンセ (Waiting for a Girl Like You)。客演が音楽性を拡張した稀有な作例
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背景:対立と4人組への再編
Foreigner は1976年、元 King Crimson / Spooky Tooth のイギリス人ギタリスト Mick Jones を中心にニューヨークで結成された6人組。1977年のデビュー作『Foreigner』、1978年の『Double Vision』、1979年の『Head Games』と立て続けに大ヒット作を放ち、ハードロックとポップ・ロックを橋渡しする独自の “アリーナ・ロック AOR” のスタイルを確立した。
しかし、Head Games の制作中から、Mick Jones(ギター、リーダー)と Ian McDonald(マルチ楽器奏者、King Crimson 創設メンバー)、Al Greenwood(キーボード)の方向性の違いが顕在化。1980年、Jones は McDonald と Greenwood を編成から外し、Lou Gramm(ヴォーカル)、Rick Wills(ベース)、Dennis Elliott(ドラム)と自身の4人組として Foreigner を再編成した。
プロデューサーには、AC/DC『Highway to Hell』(1979)、『Back in Black』(1980) で頭角を現していた Robert “Mutt” Lange を起用。Lange は後に Def Leppard、Bryan Adams、Shania Twain などをプロデュースし、80〜90年代ロック / カントリーの最重要プロデューサーの一人となるが、本作は彼が AOR の領域に踏み込んだ最初の代表作である。録音は1980年〜1981年初頭、ニューヨークの Electric Lady Studios で。
全曲レビュー(Side A → Side B)
Side A
1. Night Life(3:51)
軽快なロック・ナンバーで本作を開ける。Mick Jones のリフが終始リードし、Lou Gramm のシャウト・ヴォーカルが力強く乗る。アルバムの “入口” としての完成度が高い1曲。
2. Juke Box Hero(4:20)★ ティアA
シングル・カット(Billboard Hot 100 で26位、Mainstream Rock チャート1位)。ジュークボックスから流れる音楽に憧れる少年が、自身がロック・スターになるまでを描いた、本作のテーマ的な代表曲。Mick Jones のシンセサイザー・ベース(実は Lange の機材)と、Lou Gramm の力強い歌唱が、80年代アリーナロックの音響テンプレートを定義した。
3. Break It Up(3:54)
本作のなかでもっともハード寄りの楽曲。Mick Jones のギター・ソロが本作で最もテクニカル。
4. Waiting for a Girl Like You(4:50)★ ティアA
本作の——そしてパワーバラード史上の——もっとも有名な楽曲。Billboard Hot 100 で10週連続2位(1位を阻んだのは Olivia Newton-John “Physical”)、Adult Contemporary 1位。Mick Jones / Lou Gramm の共作。Thomas Dolby(イギリスのシンセ・ポップ作家、後の “She Blinded Me with Science” でブレイク)がシンセサイザーで参加し、彼の浮遊感あるシンセ・パッドが楽曲の核となる音響を作り上げた。
Lou Gramm のヴォーカル史上もっとも繊細な歌唱と、Mick Jones の控えめなギター・アルペジオが組み合わさったとき、AOR のバラードの “新しい型” が生まれた。この曲のシンセ+ヴォーカル+ギターアルペジオの組み合わせは、後のすべてのパワーバラード(Journey “Faithfully”、REO Speedwagon “Keep On Loving You”、Heart “Alone” など)の音響テンプレートとなった。
5. Luanne(4:13)
軽快なシャッフル・ロック。Side A の終曲として、Waiting for a Girl Like You の余韻を断ち切る役割を果たす。
Side B
6. Urgent(4:30)★ ティアA
シングル・カット(Billboard Hot 100 で4位、R&B チャート6位、Mainstream Rock 1位)。本作のもう一つの大ヒット。Mick Jones の作曲。冒頭の Mutt Lange プロデュースによる “壁のような” ギター・リフと、Junior Walker(モータウンの伝説的なサックス奏者)のテナー・サックス・ソロが組み合わさった、AOR とソウル / R&B の境界線を超えた稀有な1曲。
Junior Walker のソロは本作のレコーディング時、彼の家族の不幸の直後に録音されたが、彼の感情の高まりがそのまま音楽に転化された奇跡的な演奏として記憶されている。
7. I’m Gonna Win(4:59)
本作のなかでもっとも長尺なロック・ナンバー。Lou Gramm のヴォーカル表現の幅を示す重要な1曲。
8. Woman in Black(4:43)
Lou Gramm がリードを取った、本作のなかで最もハード寄りのナンバー。
9. Girl on the Moon(3:50)
シンセサイザーが効いた、本作中もっとも繊細な楽曲。Thomas Dolby が再びシンセで参加。
10. Don’t Let Go(4:35)
クロージング。Mick Jones / Lou Gramm の共作で、本作のテーマである “決して諦めない” 姿勢を、アリーナロックの語彙で締めくくる。アルバムを力強く閉じる絶妙な配置。
参加メンバー(Foreigner 4人組+客演)
- Lead Vocals: Lou Gramm
- Guitar/Keyboards: Mick Jones
- Bass: Rick Wills
- Drums: Dennis Elliott
- Synthesizer: Thomas Dolby(Waiting for a Girl Like You, Girl on the Moon)
- Saxophone: Junior Walker(Urgent)
- Backing Vocals: Mick Jones, Ian Lloyd
- Producer: Robert “Mutt” Lange / Engineer: Dave Wittman
Thomas Dolby と Junior Walker という、ロック・バンドのアルバムにしては異色の客演陣が、本作の音楽性を大きく拡張した。Mutt Lange のプロデュースの本領は、これら異なる音楽的バックグラウンドを持つミュージシャンを、ひとつの音響パッケージにまとめ上げる点にある。
Mutt Lange のプロダクション
Robert “Mutt” Lange のプロダクションは、AC/DC『Back in Black』で確立した “壁のような音” の方法論を、AOR の領域で再構築したものである。具体的には:
- ギターを左右に多重録音し、ステレオ・スペースを完璧に埋める
- ベース・ドラムのキックは前面に出し、スネアは深いリバーブで遠くに置く
- ヴォーカルは多重録音(リードヴォーカル+オクターブ上の幻のリード)で “厚み” を作る
- シンセサイザー・パッドはギターと同じレベルの “音響柱” として扱う
この方法論は、本作以降の Def Leppard『Pyromania』(1983)、Bryan Adams『Reckless』(1984)、Bon Jovi『Slippery When Wet』(1986、Lange は関与せず)、すべての80年代アリーナロック / AOR 作品に影響を与えた。本作は、その音響テンプレートの “原点” として、80年代ロック史で極めて重要な位置を占める。
このアルバムの位置付け
- 1977: Foreigner(デビュー作)
- 1978: Double Vision
- 1979: Head Games(メンバー対立)
- 1981: 4(本作、4人組再編後の頂点)
- 1984: Agent Provocateur(”I Want to Know What Love Is” を擁する)
私的な感想——Waiting for a Girl Like You の夜
“Waiting for a Girl Like You” を最初に聴いたのは、僕がまだティーンの頃だった。Lou Gramm のヴォーカルが「I never felt this way before」と歌い出す瞬間、世界が一瞬静止する感覚を覚えた。これは技術的なロック・バラードではなく、感情の “純粋な記録” である。Thomas Dolby のシンセサイザーは、人間の声以上に内省的な「心の音」を立ち上げる。
AOR の “ハードロック側” を語るうえで、Foreigner『4』は決して見落としてはならない。これは Boz Scaggs の “湿った密度” とは対極の “硬く乾いた密度” を持つ AOR で、80年代の音楽が何を達成したかをもっとも鮮明に示す1枚である。
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