1976年10月、Kansas は通算4枚目のスタジオ・アルバム『Leftoverture』を Kirshner Records からリリースした。トピーカ(カンザス州)出身の6人組プログレッシブ・ロック・バンドは、過去3作(1974〜1976)で批評的な評価を獲得していたが商業的成功には至っていなかった。本作は、メイン・ソングライター Kerry Livgren が一人でほぼ全曲を書き上げた “ラスト・チャンス” の作品であり、結果的に Billboard 200 で5位、最終的に米国だけで500万枚(5倍プラチナ)を売り上げた。”Carry On Wayward Son” は彼ら初の Billboard Top 20 ヒット(11位)となり、米国プログレッシブ・ロックの商業化を成し遂げた歴史的1枚として、AOR / アリーナロックの代表作のひとつとなった。
このアルバムを聴くべき3つの理由
- Carry On Wayward Son — 米国プログレッシブ・ロックの代表的アンセム。スポーツイベント、映画、テレビで現在も使用され続ける
- Robby Steinhardt のヴァイオリン。ロック・バンドにヴァイオリン奏者が常駐するという稀有な編成
- Kerry Livgren のソングライティング。プログレッシブ・ロックの構造的複雑さと、AOR の親しみやすさを完璧に均衡
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【ここに Pochipp 商品ボックス:Leftoverture / Kansas を挿入】
背景:3作の苦闘から “ラスト・チャンス” へ
Kansas は1970年、トピーカ(カンザス州)のミュージシャン Kerry Livgren、Phil Ehart、Dave Hope を中心に、複数の前身バンドを経て1973年に正式結成された6人組プログレッシブ・ロック・バンド。1974年のデビュー作以降、Yes / King Crimson / Genesis などの英国プログレッシブ・ロックの構造的複雑さを米国南西部の感性で再構築する独特の音楽性を確立していたが、商業的には伸び悩んでいた。
本作の制作前、レーベル Kirshner Records は彼らに “最後通牒” を突きつけていた——次の作品で商業的な成功を収めなければ、契約打ち切り。この状況下で、メイン・ソングライター Kerry Livgren は1976年夏、一人でこもって本作の楽曲群を書き上げた。Carry On Wayward Son は最後の最後にレコーディング・スタジオで書かれた楽曲で、当初はアルバムに収録される予定さえなかった。
プロデュースは Jeff Glixman と Kansas の共同プロデュース。録音は1976年夏、Atlanta の Studio One で。Glixman は本作以降の Kansas 黄金期作品をすべてプロデュースする中核的存在となった。
全曲レビュー(Side A → Side B)
Side A
1. Carry On Wayward Son(5:23)★ ティアA
本作の——そして Kansas のキャリア全体の——もっとも有名な楽曲。Kerry Livgren の作曲。Billboard Hot 100 で11位、Mainstream Rock チャート1位。米国プログレッシブ・ロックの代表的なアンセム。
冒頭の Steve Walsh と Robby Steinhardt のアカペラ・コーラス “Carry on my wayward son…” から始まり、Rich Williams と Kerry Livgren のツイン・ギター、Robby Steinhardt のヴァイオリン、Steve Walsh の力強いヴォーカルが組み合わさった、5分23秒のドラマティックな楽曲。中盤の変拍子セクション(プログレッシブ・ロックの構造)と、シンプルなサビ(AOR の親しみやすさ)が完璧に均衡している。
2005年の映画『Supernatural』(TV シリーズ) のテーマソングとして再ブレイクし、若い世代にも認知されるようになった。スポーツイベント、卒業式、映画、テレビCMで現在も使用され続ける、ロック史上の重要な1曲。
2. The Wall(4:50)
Steve Walsh と Kerry Livgren の共作。本作のなかでもっとも内省的なバラード。Steinhardt のヴァイオリン・ソロが、楽曲の “壁を超える” テーマを完璧に音響化する。
3. What’s on My Mind(3:30)
軽快なロック・ナンバー。本作のなかで最もポップ寄りの楽曲。
4. Miracles Out of Nowhere(6:28)
6分超のプログレッシブ・ロック・ナンバー。Kerry Livgren のソングライティングの “スピリチュアル” な側面が前面に出る楽曲。Steinhardt のヴァイオリンと、Walsh のシンセが共演する、本作のプログレ的側面の典型例。
Side B
5. Opus Insert(4:24)
Kerry Livgren の作曲。本作のなかで最も変拍子が複雑な楽曲。プログレッシブ・ロックの “技術的な顔” を示す重要な1曲。
6. Questions of My Childhood(3:39)
Kerry Livgren の自伝的な楽曲。子供時代の疑問と、大人になってからの答えを対比させる歌詞。
7. Cheyenne Anthem(6:53)
7分弱の長尺ナンバー。ネイティブアメリカン(シャイアン族)の歴史を題材にした、本作のなかで最も壮大なプログレッシブ・ロック楽曲。Steinhardt のヴァイオリン・ソロと、複数の楽章にわたる構造的複雑さは、本作のプログレッシブな側面の集大成。
8. Magnum Opus(8:25)
クロージング。8分超のインストゥルメンタル・スイート。複数の楽章(Father Padilla Meets the Perfect Gnat / Howling at the Moon / Man Overboard / Industry on Parade / Release the Beavers / Gnat Attack)から構成された、Kansas のプログレッシブ・ロック技術の集大成。Yes “Close to the Edge” / Genesis “Supper’s Ready” の系譜に連なる、米国プログレの最高峰のひとつ。
参加メンバー(Kansas 6人組)
- Lead Vocals/Keyboards: Steve Walsh
- Vocals/Violin: Robby Steinhardt
- Guitar/Keyboards: Kerry Livgren(主要ソングライター)
- Guitar: Rich Williams
- Bass: Dave Hope
- Drums: Phil Ehart
- Producer: Jeff Glixman, Kansas
この6人組は、Kansas 黄金期(1973〜1980)の正規ラインナップ。Robby Steinhardt のヴァイオリンの存在が、Kansas の音楽性を他のアメリカン・ロックバンドと決定的に区別する特徴である。Yes に Jon Anderson のヴォーカルがあるように、Kansas には Steinhardt のヴァイオリンがあった。
米国プログレッシブ・ロックの商業化
本作のリリースは、米国プログレッシブ・ロック史の重要な転換点となった。それまで、Yes / King Crimson / Genesis などの英国プログレッシブ・ロックはアメリカでも一定の支持を得ていたが、商業的な大ヒットには至っていなかった。Kansas は、プログレッシブ・ロックの構造的複雑さと、AM ラジオ向けの3分台ポップ・ロックのフックを完璧に融合させることで、プログレッシブ・ロックをメインストリームに押し上げた。
本作の方法論は、Styx(同年『Crystal Ball』、続く『The Grand Illusion』(1977))、Boston(『Boston』1976)、Journey(『Infinity』1978)と並んで、70年代後半の “プログレ系AOR” の音響的テンプレートを確立した。AOR の一つの重要なサブジャンルとして、現在も再評価が続いている。
このアルバムの位置付け
- 1974: Kansas(デビュー作)
- 1975: Song for America
- 1975: Masque
- 1976: Leftoverture(本作、ブレイク作)
- 1977: Point of Know Return(”Dust in the Wind” を擁する)
私的な感想——Carry On Wayward Son の “戻る” 場所
“Carry On Wayward Son” を聴くと、僕はいつも “帰る場所” のことを考える。歌詞の主人公は “wayward son”(道を外した息子)だが、楽曲の最後で “lay your weary head to rest” と語りかける優しさがある。これは、AOR が本質的に “成熟した大人のための音楽” であることを示す代表例である。Kansas は、プログレッシブ・ロックの技術と、AOR の感情の温かさを、一つの楽曲のなかに融合させる稀有な才能を持っていた。
本作は、Kansas のキャリアの “頂点” であるだけでなく、米国プログレッシブ・ロック史の重要な転換点でもある。AOR を語るうえで、Kansas のこの1作は決して見落としてはならない、必修科目である。
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