1962年から借り、1994年に貸した──Michael McDonald『If That’s What It Takes』(1982)

If Thats What It Takes - Michael McDonald レビュー
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Michael McDonald のソロ・デビュー作『If That’s What It Takes』(1982年8月3日、Warner Bros.)でいちばん売れた曲「I Keep Forgettin’ (Every Time You’re Near)」の作者欄には、4人の名前が並んでいる。McDonald と共作者の Ed Sanford、そして Jerry Leiber と Mike Stoller。後者の2人はこのセッションに関わっていない。1962年に Chuck Jackson が歌った同名曲との類似が指摘され、クレジットが追加されたのである。

それから12年後の1994年、この曲のリズム4小節が Warren G の「Regulate」に切り取られ、Hot 100 で2位まで上がった。つまりこの曲は、20年前の曲から「借り」、12年後の曲に「貸した」ことになる。借りて、貸す——ソロ・デビュー作を1本の線で読むなら、この一語がいちばん座りがいい。

借りたのは曲だけではない。10曲のうち McDonald の単独作は2曲。共作者には Kenny Loggins、Randy Goodrum、Jackie DeShannon が並び、1曲は Doobie Brothers 時代の自作の再録音だ。バンドを離れたばかりの男が何を持ち寄り、何を人から借りたか。本稿はその出納を追う。

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Michael McDonald - I Keep Forgettin (Official Music Video)
目次

4人目と5人目の作者——1962年の曲が残した痕跡

Leiber & Stoller の「I Keep Forgettin’」は1962年、Chuck Jackson のシングルとして出て Hot 100 の55位に留まった。McDonald 版は歌詞もメロディも別物だが、タイトルと着想の骨格が重なるため、両者の名前が作者に加えられた。

結果として、この曲は R&B の作曲家コンビの名を戴きながら AOR の代表曲として流通した。Hot 100 で4位、R&B で7位、Adult Contemporary で8位——3チャートすべてでトップ10。翌1983年2月のグラミーでは最優秀男性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンスにノミネートされた(受賞は Lionel Richie「Truly」)。

「I Keep Forgettin’」ピーク備考
Billboard Hot 1004位1982年8月シングル
Billboard R&B7位
Billboard Adult Contemporary8位
UK Singles43位
Chuck Jackson 版(1962)Hot 100 55位Leiber & Stoller 作・制作
Warren G「Regulate」(1994)Hot 100 2位本曲のリズム4小節をサンプリング

演奏は Steve Lukather、Greg Phillinganes(クラヴィネット)、Louis Johnson、Jeff Porcaro、コーラスに Maureen McDonald。あの抑えたエレピの反復は、当時の LA でいちばん多忙なリズム隊が「弾きすぎない」ことで成り立っている。

解散ツアーの1か月前に届いたソロ作

アルバムが店頭に並んだ1982年8月3日、Doobie Brothers はまだ存在していた。バンドの Farewell Tour が録音されたのは同年9月3日から11日、最終公演は Berkeley の Greek Theatre だった。McDonald はソロ作の発売から5週間、「解散するバンドのメンバー」として舞台に立っていた。

録音期間が1980年から1982年にまたがっているのはそのためだ。McDonald 自身はのちに「気が重かった。バンドの一員でいることに慣れきっていた」と語り、プロデューサーの Ted Templeman は回想録で、彼が曲を聴かせる前に必ず「大した曲じゃないんだけど」と前置きしたことを書き残している——実際にはどれも良い曲だったのに、と。

Templeman は Doobies 時代からの担当で、本作では Warner の Lenny Waronker と共同プロデュースを組んだ(McDonald 自身はプロデューサーとしてクレジットされていない)。Doobies のメンバーで演奏に加わったのは、1曲目でパーカッションを叩く Bobby LaKind ただ1人。代わりに6曲を Steve Gadd と Willie Weeks、「I Keep Forgettin’」を含む3曲を Jeff Porcaro のリズム隊が支え、ギターは Dean Parks、Steve Lukather、Robben Ford が曲ごとに分担した。ソロ作は、バンドの人脈とは別の場所で組まれた。

共作者の地図——10曲のうち単独作は2曲

クレジットを並べると、本作は「McDonald の曲集」というより「McDonald と誰かの曲集」だと分かる。単独作は A面ラストの「I Can Let Go Now」と B面ラストの「Believe in It」だけである。

曲共作者備考
Playin’ by the RulesEd Sanford1983年2月、3枚目のシングル
I Keep Forgettin’Sanford / Leiber / Stoller後者2名は1962年曲との類似で追加
Love LiesRandy Goodrum「You Needed Me」の作者
I Gotta TryKenny LogginsLoggins『High Adventure』にも収録
I Can Let Go Now—(単独)ピアノ弾き語り
That’s WhyRandy Goodrumコーラスに Christopher Cross ら
If That’s What It TakesJackie DeShannon表題曲
No Such LuckGrady Walker / Harry GarfieldEdgar Winter のアルト・サックス
Losin’ End—(単独)Doobies『Takin’ It to the Streets』(1976)の再録音
Believe in It—(単独)クローザー

なかでも Kenny Loggins との関係は対称的だ。「I Gotta Try」は本作の2枚目のシングル(Hot 100 44位、AC 28位)になり、同じ1982年9月に出た Loggins の『High Adventure』にも別ヴァージョンが収録された。「What a Fool Believes」から続く2人の共作は、「どちらの曲でもあり、どちらのものでもない」状態に達していた。

借りた曲、持ち越した曲——2つの単独作と再録音

I Can Let Go Now

アルバム最短の2分54秒。McDonald のピアノと声だけで組まれ、リズム隊もギターも入らない。AllMusic の Jason Elias が歌詞の面で本作の白眉に挙げた曲で、Doobies では「バンドの音」に溶かされていた彼の弾き語りが、ここで初めてそのまま録音されている。もう1つの単独作「Believe in It」は Edgar Winter のサックスで閉じるクローザーで、「借りた曲」で始まり「自分の曲」で終わる配列がこの2曲で完成する。

Losin’ End

1976年の『Takin’ It to the Streets』に入っていた自作曲の再録音。ここでは Gadd と Weeks のリズムに Phillinganes の Hammond オルガン、Tom Scott の Lyricon を乗せ、AllMusic が「より暗く作り直した」と評した陰影を得ている。バンドから「持ち越した」曲を、バンドを離れた音で歌い直す——本作の位置を1曲で言い表している。

1994年、Roscoe’s の前で買われた1枚

Warren G が本作の LP を手に入れたのは、Hollywood の Roscoe’s House of Chicken ’N Waffles の前のレコード売りからだった。彼は「I Keep Forgettin’」のリズム4小節を Akai MPC60 でループし、Nate Dogg のヴォーカルを乗せた。「Regulate」は1994年4月、映画『Above the Rim』のサウンドトラックから出て Hot 100 の2位まで上がる。McDonald のオリジナルより2つ上の順位である。

「Regulate」以降、あのエレピのリフは G-Funk のリスナーにも知られる音になった。1962年から借りた曲が1994年に貸し出される——1曲の循環としては、AOR 史でもかなり珍しい。

数字と評価——ゴールド、6位、C+

アルバムは Billboard 200 で6位、R&B アルバム・チャートで10位、RIAA ゴールド。ソロ作としては彼のキャリアで最高位で、次作『No Lookin’ Back』(1985)の45位を大きく上回った。

指標結果
Billboard 2006位(ソロ作での自己最高位)
Billboard Top R&B/Hip-Hop Albums10位
Canada / Norway / Australia27位 / 30位 / 41位
RIAA 認定ゴールド
AllMusic(Jason Elias)4.5 / 5
Rolling Stone(1982年9月30日)4 / 5
Robert Christgau(Village Voice)C+

批評は割れた。AllMusic は「出来のよい曲とそうでない曲が混在するが、輝く部分だけで必聴に値する」と書き、Rolling Stone は4つ星。一方で Robert Christgau は C+。ソウルの語彙を AOR の文法で歌うことへの評価は、1982年の時点ですでに二分されていた。

この後、名前だけで立てるようになるまで

翌年の James Ingram との「Yah Mo B There」(Hot 100 19位)、1986年の Patti LaBelle との「On My Own」(Hot 100・R&B ともに1位)は、いずれも相手のアルバムからのシングルだった。「借りて」組み上げるやり方は、その後も彼の得意技であり続けた。

聴く順番を一つ。「Losin’ End」を Doobies 版と本作版で続けて聴き、次に「I Keep Forgettin’」から「Regulate」へ飛ぶ。前者はバンドからソロへの持ち越し、後者は次の世代への貸し出し。この2組を往復すれば、本作の立ち位置は説明なしで分かる。McDonald がコーラスで参加した Steely Dan の『Aja』のレビューと、AOR 名盤100選もあわせてどうぞ。

参考資料

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この記事を書いた人

AORBreeze運営者。Boz Scaggs、Steely Dan、TOTO、Bobby Caldwellを原体験に、70〜80年代のAOR・ヨットロック・シティポップ・フュージョンを聴き続けているリスナー。David FosterやJay Graydonら西海岸セッション人脈に注目し、参加ミュージシャン視点でアルバムを掘り下げています。

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