1982年7月、Michael McDonald は Doobie Brothers 解散(1982年3月)から4ヶ月後、ソロ・デビュー作『If Thats What It Takes』をリリースした。Warner Bros. から。プロデュースは Doobie 時代から続投の Ted Templeman と McDonald 自身。先行シングル “I Keep Forgettin (Every Time Youre Near)” は Billboard Hot 100 で4位、R&B チャートで18位の大ヒットを記録。Doobie Brothers の “What a Fool Believes” で頂点を極めた “白いソウル” の語彙を、彼自身の単独名義でさらに進化させた本作は、80年代AORの重要な分水嶺となった。
このアルバムを聴くべき3つの理由
- “I Keep Forgettin” — Warren G の “Regulate”(1994)にサンプリングされ、AOR が90年代以降の黒人音楽にどう影響したかを示す歴史的1曲
- Doobie Brothers の集合的な音から離れて、McDonald 個人の音楽性(ピアノ、ヴォーカル、ソングライティング)が全面に出た瞬間
- Kenny Loggins、Patti LaBelle、James Ingram ら盟友陣との共演が、AORとR&Bを結ぶ “橋” として機能
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背景:Doobie Brothers 解散とソロ転向
1979年の Minute By Minute、1980年の One Step Closer——Doobie Brothers は Michael McDonald 主導の “白いソウル” 路線で連続して商業的成功を収めていた。だが、1981年〜1982年にかけて、バンド内部では創作的な疲弊と方向性の違いが顕在化。1982年3月、Doobie Brothers は事実上の解散を発表。McDonald は即座にソロ作の制作に取り掛かった。
本作は、彼が Doobie Brothers 時代から温めていた楽曲群と、解散後の新作を混ぜたソロ・デビュー作という位置付け。プロデュースは Doobie 時代から信頼関係のあった Ted Templeman と McDonald 自身の共同プロデュース。ロサンゼルスのスタジオで1981年〜1982年に録音された。
参加メンバーには、Doobie Brothers 時代の盟友(Patrick Simmons, Jeff “Skunk” Baxter)に加え、Kenny Loggins、Patti LaBelle、James Ingram、Edgar Winter といった、McDonald がコーラスやソングライティングで関係を築いてきた一流ミュージシャンが集結。AOR と R&B の境界線を最も自然に超えた人脈の絡みが、本作の最大の魅力である。
全曲レビュー(Side A → Side B)
Side A
1. I Keep Forgettin (Every Time Youre Near)(3:39)★ ティアA
先行シングル。Billboard Hot 100 で4位、R&B チャートで18位の大ヒット。Ed Greene の重いドラム、Louis Johnson のグルーヴィなベース、McDonald のあのエレピのリフ——3要素が組み合わさった瞬間に立ち上がる “ロサンゼルスの夜の湿度” は、AOR と R&B の境界線を最も完璧に超えた音響である。
1994年、Warren G がこの曲のリフをサンプリングして “Regulate” を制作、全米2位の大ヒット。AOR が90年代の Gフ ァンク/ヒップホップにまで影響を及ぼした象徴的な事例として、本曲は音楽史的にも重要な位置を占める。
2. Im Gonna Make You Love Me(4:25)
McDonald のソウルフルなヴォーカルが前面に出るミドル・テンポ。Doobie 時代の “Open Your Eyes” の延長線上にある楽曲。
3. I Gotta Try(4:25)★
シングル・ヒット(Billboard 44位、Adult Contemporary 5位)。Kenny Loggins との共作で、Loggins 自身もコーラスで参加。”What a Fool Believes” コンビが再び発揮する、AOR バラードのもう一つの完成形。
4. Believe in It(4:23)
本作のなかでもっとも繊細なバラード。McDonald のヴォーカルが控えめで、Patti LaBelle のコーラスが効いている。
5. Playin by the Rules(4:00)
軽快なシャッフル。Doobie Brothers 後期のグルーヴ感を最も色濃く残す1曲で、Patrick Simmons がコーラスで参加している。
Side B
6. I Can Let Go Now(3:53)
シングル・ヒット(Billboard 41位)。McDonald 単独作曲のバラード。ピアノだけのシンプルなアレンジで、彼のヴォーカル表現の核心が詰まっている。
7. Losin End(4:33)
R&B 寄りのミドル・テンポ。James Ingram がコーラスで参加し、AOR と R&B の境界線を最もスムーズに溶かす1曲。
8. Jealous Mind(4:18)
McDonald のオリジナルで、嫉妬という感情を題材にした内省的な曲。シンセサイザーとピアノのアレンジが、80年代AOR の音響を確立する。
9. That Got Away(3:55)
本作のなかでもっとも軽快な曲。Edgar Winter のサックスとシンセが、独特の色彩を加える。
10. If Thats What It Takes(4:18)
タイトル曲。クロージングとして配置された、McDonald 自身による壮大なバラード。Kenny Loggins と Patrick Simmons のコーラスが、Doobie Brothers の終焉と McDonald のソロ時代の幕開けを同時に告げる、象徴的な1曲。
参加メンバー(盟友勢ぞろい)
- Lead Vocals/Keyboards: Michael McDonald
- Guitar: Jeff “Skunk” Baxter, Patrick Simmons, Steve Lukather
- Bass: Louis Johnson, Willie Weeks
- Drums: Ed Greene, Jeff Porcaro
- Sax: Edgar Winter, Tom Scott
- Backing Vocals: Kenny Loggins, Patti LaBelle, James Ingram, Patrick Simmons, Bill Champlin, Tower of Power Horns
- Producer: Michael McDonald, Ted Templeman
このクレジット・リストは、80年代初頭の AOR / R&B 界の “家系図” そのものである。Doobie Brothers の盟友(Baxter, Simmons)、Toto の若手(Lukather, Porcaro)、Kenny Loggins、Patti LaBelle、Tower of Power——McDonald がいかに広い人脈で活動してきたかが分かる。
Warren G の “Regulate” と AOR の遺産
1994年、Warren G と Nate Dogg は本作の “I Keep Forgettin” のリフをサンプリングして “Regulate” を制作。Gファンクの代表曲として全米2位の大ヒットとなった。これは、80年代AOR が90年代以降の黒人音楽(ヒップホップ、Gファンク、ネオソウル)にどう影響したかを示す象徴的な事例である。
AOR は単なる商業的な音楽ジャンルではなく、ブラック・ミュージックと白人ロックを結ぶ “ハイブリッド” として、後の世代にまで影響を残している。Michael McDonald の音楽は、その典型的な事例である。
このアルバムの位置付け
- 1978: Doobie Brothers『Minute By Minute』(”What a Fool Believes” でグラミー4部門)
- 1982: Michael McDonald『If Thats What It Takes』(本作、ソロ・デビュー)
- 1985: No Lookin Back
- 1986: “On My Own”(Patti LaBelle とのデュエットで全米1位)
- 1994: Warren G “Regulate” で AOR が再評価される
私的な感想——あのエレピ・リフの夜
“I Keep Forgettin” のエレピ・リフは、僕にとって “ロサンゼルスの夜” の代名詞である。それは1980年代の音だが、同時に1990年代の Warren G の音でもあり、2020年代のシティポップ・ブームの中で再生される音でもある。AORが時代を超えて生き続けることの最も鮮明な実例が、この4分弱のシングルに詰まっている。
Doobie Brothers 時代の Michael McDonald も素晴らしいが、ソロ第一作の本作には、バンドというフレームから解放された彼の “声” がもっとも純粋に響いている。AOR を語るうえで、本作は決して見落としてはならない1枚である。
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