同じ夜にポップとジャズを──Al Jarreau『Breakin’ Away』(1981)

Breakin Away - Al Jarreau レビュー
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1982年2月24日、ロサンゼルスの Shrine Auditorium で開かれた第24回グラミー賞で、Al Jarreau は2度ステージに呼ばれた。1度目は Best Pop Vocal Performance, Male——対象は前年6月30日に Warner Bros. から出たアルバム『Breakin’ Away』そのもの。2度目は Best Jazz Vocal Performance, Male——対象は同じアルバムの8曲目「(Round, Round, Round) Blue Rondo à la Turk」だった。

つまりこの夜、ポップ部門とジャズ部門の審査員は同じ1枚を聴いて別々の理由で票を入れた。しかもポップ側の代表曲は、ナッシュビルの作家が別のバンド宛てに書き、手違いで Jarreau に届いたバラード。ジャズ側の代表曲は Dave Brubeck の9/8拍子に Jarreau 自身が歌詞を付けたもの。『Breakin’ Away』を聴き直す筋道は、この「同じ夜の2つの受賞」から引くのがいちばん分かりやすい。

🎵 両端の2曲を先に流してから

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Al Jarreau - We're In This Love Together (Official Video)
目次

1982年2月24日——同じ夜の2つの部門

この年の Album of the Year は John Lennon & Yoko Ono『Double Fantasy』。『Breakin’ Away』はその部門にもプロデューサーの Jay Graydon と連名でノミネートされ、Quincy Jones『The Dude』、Steely Dan『Gaucho』らと並んでいた。

男性ポップ・ボーカル部門の対抗馬は Christopher Cross「Arthur’s Theme」、James Ingram「Just Once」、Bill Withers「Just the Two of Us」ら。この顔ぶれの中で、Jarreau はアルバム単位で勝った。一方のジャズ・ボーカル部門は1978年、1979年に続く3度目で、こちらは「本業」の延長だった。授賞式の演奏枠でも彼は Pepper Adams と「Blue Rondo à la Turk」を演奏した——ポップ部門の受賞者が、その夜のステージでは9/8拍子を歌ったのである。

ポップ側の1曲は、宛先を間違えて届いた

We’re in This Love Together

アルバム最大のヒットは、Roger Murrah と Keith Stegall というナッシュビルの作家コンビの曲で、Jarreau のために書かれたものではない。Stegall によれば、デモは Warner Bros. のレーベルメイト、Neil Larsen と Buzz Feiten の The Larsen-Feiten Band に向けて送ったもので、それが手違いで Jarreau の山に紛れ込んだ。Johnny Mathis にも先に持ち込まれていたが返事はなかった。

Graydon と Jarreau は「ヒットになる1曲」を探してデモを聴き続けていた。この曲は箱の底に残った最後のテープで、Graydon は「これがヒットになってくれないと困る」と言いながら再生したという。結果は Billboard Hot 100 で15位、Adult Contemporary と Hot Soul Singles でともに6位、カナダの RPM Adult Contemporary では1位。Jarreau にとって初の、そして最大のポップ・ヒットになった。

演奏は Steve Gadd、Abraham Laboriel、Michael Omartian、Steve Lukather、サックス・ソロは Lon Price。カントリー作家のメロディをこの布陣で鳴らすと AOR の語彙になる、という実例だ。Jarreau はサビでも声を張らず、語尾を柔らかく落とす——歌い方はむしろジャズ寄りの抑制が効いている。

ジャズ側の1曲は、9/8拍子に歌詞を付けた

(Round, Round, Round) Blue Rondo à la Turk

原曲は Dave Brubeck Quartet が1959年の『Time Out』で発表した「Blue Rondo à la Turk」。Brubeck がトルコの街頭で聴いた変拍子をもとにした曲で、前半は9/8拍子を 2+2+2+3 が3小節、3+3+3 が1小節のパターンで反復し、後半は4/4のスウィングに切り替わる。歌詞は Jarreau 本人が書き、頭の「Round, Round, Round」がその追加分を示している。

この曲だけ、布陣が変わる。ピアノとリズム・アレンジはブルガリア出身の Milcho Leviev で、他の8曲でギターを弾いている Graydon 自身がここではギターをクレジットされていない。ポップ部門を獲ったアルバムの中にジャズ部門を獲る1曲があり、その1曲だけプロデューサーが自分の楽器を引っ込めている——歌手の「本業」をどこに置くか、Graydon が意識的に考えていたことがクレジットから読み取れる。

2つの声をひとつの音にした人たち

Jay Graydon は Steely Dan『Aja』(1977)の「Peg」でソロを弾いたギタリストで、David Foster と組んだ Airplay(1980)を経て、前作『This Time』(1980)から Jarreau のプロデューサーに就いた。本作は2作目で、AllMusic の Jason Elias が「『This Time』の試みをほぼ完成させた」と書いたのはこの順序を踏まえてのことだ。

もう1人が Tom Canning。1975年に Warner Bros. が Jarreau を見出したとき一緒に演奏していたピアニストで、本作では準プロデューサーを務め、Graydon、Jarreau との3人共作で5曲を書いた。外部の曲は3曲と Brubeck 曲だけである。ドラムは9曲中8曲が Steve Gadd で、Jeff Porcaro は表題曲のみ。その表題曲だけベースも Neil Stubenhaus、エンジニアも Larry Brown に替わっていて、別セッションで録られた形跡がそのまま残っている。

項目内容
リリース1981年6月30日 / Warner Bros.(41:07、9曲)
プロデュースJay Graydon(準プロデューサー: Tom Canning)
スタジオDawnbreaker / Garden Rake / The Pasha Music House、ストリングスは Sunset Sound、マスタリングは Bernie Grundman(A&M)
リズム隊Steve Gadd (ds) / Abraham Laboriel (b)——表題曲のみ Jeff Porcaro / Neil Stubenhaus
キーボードTom Canning / David Foster (2, 5, 6) / Michael Omartian (3) / George Duke (7) / Milcho Leviev (8)
ギターJay Graydon (1〜7, 9) / Steve Lukather (2, 3) / Dean Parks (9)

両端のあいだを埋める7曲

両端が決まれば、残りの曲の地図が描ける。Closer to Your Love(3:54)は Tom Scott のホーンが入る1曲目で、アルバムがポップ側から始まることを宣言する。My Old Friend(4:26)の作者は Steve George、John Lang、Richard Page——数年後に Mr. Mister として「Broken Wings」を1位に送る2人とその作詞家で、Page と George はコーラスにも入っている。

Easy(5:23)はスキャットが最も長く聴ける曲で、AllMusic はラテン風の装飾を「見事で、かつ控えめ」と評した。Our Love(3:53)は最も静かなバラード。Breakin’ Away(4:12)は Porcaro と Stubenhaus のリズム隊に Jerry Hey のホーンで、第2シングルとして Hot 100 で43位。

Roof Garden(6:19)は本作最長で、George Duke の Fender Rhodes が入る。米国ではシングルにならず、オランダ・ベルギー・フランスでのみカットされた。最後のTeach Me Tonight(4:13)は Sammy Cahn と Gene De Paul のスタンダードで、第3シングルとして Hot 100 で70位。「Blue Rondo」の直後にもう一度スタンダードへ戻って、アルバムは終わる。

数字で見る、2年間のロングセラー

『Breakin’ Away』は Billboard 200 に2年間とどまり、最高位は9位。RIAA は1982年10月1日にゴールドを認定し、その後プラチナに達している。

チャート / 認定成績
US Billboard 200最高9位(2年間チャートイン)
US Top R&B Albums1位
1982年 年間チャートJazz 1位 / Billboard 200 21位 / R&B 13位
「We’re in This Love Together」Hot 100 15位 / AC 6位 / Soul 6位 / カナダ AC 1位
「Breakin’ Away」Hot 100 43位 / AC 30位 / R&B 25位
「Teach Me Tonight」Hot 100 70位 / AC 19位 / R&B 51位
認定RIAA ゴールド(1982年10月1日)→ プラチナ / SNEP(フランス)ゴールド

シングルの最高位は15位止まりで、アルバムはトップ10に入った。複数のラジオ・フォーマットで同時に回り続けた結果で、ここでも「2つの部門」の構図が繰り返されている。

ジャズ、ポップ、そして R&B——3つの部門を持つ歌手

Jarreau のグラミー歴を並べると、1978年と1979年がジャズ・ボーカル、1982年がポップとジャズの同時受賞、そして1993年に『Heaven and Earth』で R&B ボーカル部門を獲っている。3つのボーカル部門で受賞した歌手はごく少なく、『Breakin’ Away』はその真ん中で、ジャズの歌手がポップの聴衆を獲得した瞬間を記録している。

AOR の聴き手にとっての本作の価値は、Airplay のセッション体制が Steve Gadd と Abraham Laboriel という別のリズム隊で動いている点にある。『Silk Degrees』以来のロサンゼルスの都会的な R&B の語彙を、ジャズ・ボーカリストの声を中心に組み直した、AOR 名盤100選でも数少ない「歌い手側から定義した」1枚だ。

どこから聴くか。答えは背骨のとおりだ。「We’re in This Love Together」を聴いてから「Blue Rondo à la Turk」へ飛び、そのあとで1曲目に戻る。両端が分かれば、あいだの7曲の立ち位置は自然に見えてくる。

参考資料

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この記事を書いた人

AORBreeze運営者。Boz Scaggs、Steely Dan、TOTO、Bobby Caldwellを原体験に、70〜80年代のAOR・ヨットロック・シティポップ・フュージョンを聴き続けているリスナー。David FosterやJay Graydonら西海岸セッション人脈に注目し、参加ミュージシャン視点でアルバムを掘り下げています。

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