クルセイダーズの『Street Life』は、タイトル曲の題名どおり「街の暮らし」を描いたアルバムとして語られます。ところが作曲者ジョー・サンプル自身の説明をたどると、この曲の着想は街角ではなく、カリフォルニアのマンモス・マウンテンにあるスキー場の初心者コースにありました。転んでは人にぶつかる初心者たちの混乱ぶりを、サンプルは「狂気の大通り(a boulevard of madness)」と表現し、それこそがストリート・ライフだと語っています。
そこに作詞家ウィル・ジェニングスがハリウッド大通りの光景を言葉として重ね、アルバムにはビバリーヒルズの高級ショッピング街の名を冠した「Rodeo Drive (High Steppin’)」も並びます。ゲレンデの混沌がロサンゼルスの通りへ着地していく──本稿ではこの連想を軸に、1979年5月にMCAから出た本作をたどります。
ゲレンデの混沌が「大通り」になるまで
「Street Life」の作詞を担ったウィル・ジェニングスは1944年テキサス州キルゴア生まれ。1971年にナッシュヴィルで職業作家となり、1977年にはバリー・マニロウ「Looks Like We Made It」で全米1位を得ていました。Songfactsによれば、二人を引き合わせたのは出版社側の責任者チャック・ケイで、ジェニングスとサンプルの共作は1978年に始まっています。
サンプルが持ち込んだのは、スキー場で見た「止まれない人たちの渋滞」のイメージでした。一方のジェニングスは、歌詞はハリウッド大通りからそのまま取ったと説明しています。作曲者は雪の斜面を、作詞家は大通りを見ていたわけです。きらびやかさと危うさが同居する都市の歌に聴こえるのは、この二つの風景が一曲の中で溶け合っているからでしょう。
二人のコンビはこの曲にとどまりません。のちにランディ・クロフォードのソロ作の大半も書くことになります。ジェニングスはその後「Up Where We Belong」「My Heart Will Go On」でアカデミー賞を2度受賞する作家になりました。
3年越しの指名──ランディ・クロフォードという声
タイトル曲を歌ったランディ・クロフォードは1952年ジョージア州メイコン生まれ。1970年代半ばにはニューヨークでキャノンボール・アダレイと共演し、彼の『Big Man: The Legend of John Henry』(1975)にも参加しています。1976年にはデビュー作『Everything Must Change』を発表し、サンプルはこのアルバムに演奏で加わっていました。
サンプルはその声を覚えていて、3年後に「Street Life」の歌い手として彼女を指名します。結果はグループ最大のヒットとなり、クロフォードにとっても出世作になりました。
11分を超えるアルバム版は、彼女の歌に続いて、ホーン・セクションとリズム隊、フェルダーのサックスとサンプルの鍵盤による長いインスト・パートへ進みます。歌ものとして始まり、ジャズ・ファンクの長尺ジャムへ抜けていく構成そのものが、本作の性格を表しています。
三人のプロデューサーとハリウッドの録音チーム
ヒューストン出身の彼らは1971年に「ジャズ」を外して現在の名前になり、トロンボーンのウェイン・ヘンダーソンは1975年にプロデューサー業へ転じて脱退。ギターのラリー・カールトンも、1970年代の参加作は『Free as the Wind』(1977)までで、1978年にはWarner Bros.からソロ作を出しています。残ったのは、サンプル、フェルダー、スティックス・フーパーの3人でした。
本作はその3人が共同でプロデュースし、ハリウッドのHollywood Sound Recordersで録音されました。エンジニアとミックスはリック・ペッコネン、マスタリングはA&Mスタジオのバーニー・グランドマン。ギターとベースの専任メンバーがいない分、曲ごとにセッション奏者が呼ばれています。
| 担当 | 名前 | 参加曲・備考 |
|---|---|---|
| キーボード、ホーン/ストリングス編曲 | ジョー・サンプル | 全曲。共同プロデュース |
| テナー/アルト・サックス、エレキ・ベース | ウィルトン・フェルダー | 全曲。1・2・5曲目ではベースも担当。共同プロデュース |
| ドラムス | スティックス・フーパー | 全曲。共同プロデュース |
| リード・ヴォーカル | ランディ・クロフォード | 1「Street Life」 |
| バック・ヴォーカル | ルイ・アルデベール、モニク・アルデベール | 2「My Lady」 |
| ギター | アーサー・アダムス、ローランド・バティスタ、ビリー・ロジャース、バリー・フィナティ、ポール・ジャクソンJr.、デヴィッド・T・ウォーカー | 曲ごとに編成が異なる |
| ベース | アルフォンソ・ジョンソン/ジェームス・ジェマーソンJr. | 3・6曲目/4曲目 |
| パーカッション | パウリーニョ・ダ・コスタ | 1〜5曲目 |
39分のうち11分が一本の「通り」──6曲の歩き方
アルバムの総収録時間はおよそ39分。そのうち約11分18秒を冒頭のタイトル曲が占めます。残る5曲はメンバー3人がそれぞれ書いたインストゥルメンタルで、作者ごとの個性を聴き比べられる構成です。
| # | 曲名 | 作者 | 時間 | 聴きどころ |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Street Life | ジョー・サンプル/ウィル・ジェニングス | 11:18 | クロフォードの歌唱から長い間奏へ。ホーン・セクションを含む大編成 |
| 2 | My Lady | ウィルトン・フェルダー | 6:43 | アルデベール夫妻のコーラスが柔らかく重なる、メロウなミディアム |
| 3 | Rodeo Drive (High Steppin’) | ジョー・サンプル | 4:23 | アルフォンソ・ジョンソンのベースとブラスが跳ねる、題名どおりの軽快な足取り |
| 4 | Carnival of the Night | ウィルトン・フェルダー | 6:22 | ギター4人体制。ソロはバリー・フィナティ |
| 5 | The Hustler | スティックス・フーパー | 5:26 | シングル「Street Life」のB面。フィナティのギター・ソロ |
| 6 | Night Faces | ジョー・サンプル | 5:09 | サンプル、フェルダー、フーパー、ジョンソンの4人だけの小編成 |
「My Lady」は、タイトル曲の熱気を冷ますように置かれたフェルダーの曲です。サックスの旋律をギター2本とコーラスが包みます。続く「Rodeo Drive (High Steppin’)」はサンプル作。歯切れのよいブラスが、高級街を闊歩する足取りのようです。
「Carnival of the Night」と「The Hustler」は、ギターの比重が増す2曲です。前者ではギター4人が重なり合う中でフィナティがソロを取り、ベースはジェームス・ジェマーソンJr.。後者はドラマーのフーパーが書いた曲で、シングルのB面にも選ばれました。最後の「Night Faces」はパーカッションもギターも抜いた4人編成で、サンプルの鍵盤とフェルダーのアルトが静かに対話します。大編成の「通り」で始まり、人の少ない夜更けの街角で終わる曲順です。
ジャズ1位、R&B3位、全英10位──チャートに表れた越境
『Street Life』はクルセイダーズにとって商業的な頂点でした。ビルボードではジャズ、R&B、ポップの3つのアルバム・チャートでトップ20に入り、イギリスでもアルバム、シングルともに上位へ食い込んでいます。
| 対象 | チャート | 最高位 | 備考 |
|---|---|---|---|
| アルバム | 米ビルボード ジャズ・アルバム | 1位 | 1979年 |
| アルバム | 米ビルボード R&B(ブラック)アルバム | 3位 | 1979年 |
| アルバム | 米ビルボード ポップ・アルバム | 18位 | 1979年 |
| アルバム | 全英アルバム・チャート | 10位 | 1979年7月21日付で初登場、16週チャートイン |
| シングル「Street Life」 | 米ビルボード Hot 100 | 36位 | 1979年7月に米国発売 |
| シングル「Street Life」 | 米ビルボード R&Bシングル | 17位 | |
| シングル「Street Life」 | 全英シングル・チャート | 5位 | 1979年8月18日付で初登場、11週チャートイン |
前作『Images』(1978)はポップ・アルバム・チャートで34位、R&Bアルバムで18位でした。ゲスト歌手を立てた本作でポップとR&Bの順位が大きく伸び、シングルは本国を上回る全英5位を記録しました。
アルバムの外へ延びていった「Street Life」
この成功は、クロフォードのソロ・キャリアを動かしました。クルセイダーズの3人は彼女の1980年作『Now We May Begin』をプロデュースし、収録曲の大半はサンプルとジェニングスの作。シングル「One Day I’ll Fly Away」は全英2位、アルバムも全英10位まで上がりました。
曲そのものも、何度も姿を変えて生き延びました。1979年にはハーブ・アルパートが『Rise』でカヴァー。1981年にはクロフォードが映画『シャーキーズ・マシーン』のために録り直し、そのヴァージョンはのちにクエンティン・タランティーノ監督の『ジャッキー・ブラウン』(1997)のサウンドトラックにも収められました。B.B.キングとロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団を迎えたライヴ盤『Royal Jam』(1982)の短縮版は、第25回(1983年)グラミー賞の最優秀R&Bヴォーカル・パフォーマンス(デュオ/グループ)にノミネートされています。
AORの耳で『Street Life』を歩く
AORリスナーにとって、クルセイダーズは意外に近い存在です。かつてのメンバー、ラリー・カールトンはスティーリー・ダンの『Aja』や『Gaucho』でギターを弾き、ソロ作『Larry Carlton』(1978)はAORファンにも親しまれています。サンプル自身も『Aja』の「Black Cow」でクラヴィネット、表題曲でローズを弾いており、AORを支えたスタジオの人脈と本作の人脈は地続きです。
インスト主体の作品に1曲だけ歌を置き、それがポップ・チャートへの扉になった例としては、歌とギターを両立させたGeorge Benson『Breezin’』がひとつの先例であり、翌1980年にはビル・ウィザースを迎えたGrover Washington Jr.『Winelight』が同じ構図で大ヒットを生みました。3枚を並べると、ジャズ奏者が「歌」でAORやソウルの聴き手へ橋を架けた流れが見えてきます。
入口としては、まずアルバム版の「Street Life」を通して聴き、長い間奏まで含めて一本の「通り」として体験してみてください。次に「My Lady」と「Night Faces」で、同じバンドの静かな表情を確かめると、本作がディスコ期の一発ヒットにとどまらないことがわかります。フュージョンからスムースジャズへの流れ全体は、スムースジャズ/フュージョン名盤8選を地図として使えます。
試聴・購入
『Street Life』は、Spotify、Apple Music、Amazon Music などの各サービスで「Crusaders Street Life」と検索すると見つけやすくなります。配信状況や収録ヴァージョンは時期や地域によって変わるため、各サービスでご確認ください。
参考資料
- Street Life (The Crusaders album) – Wikipedia(英語)
- Street Life (The Crusaders song) – Wikipedia(英語)
- Street Life by The Crusaders – Songfacts
- The Crusaders – GRAMMY.com
- Will Jennings – Wikipedia(英語)
- Now We May Begin – Wikipedia(英語)
- Street Life – MusicBrainz(収録曲・クレジット)
- 1979 The Crusaders – Street Life – Session Days(曲別参加ミュージシャン)
