1976年1月6日、7日、8日。George Benson のバンドがハリウッドの Capitol Studios にいたのは、この3日間だけである。そこで録られた6曲のうち5曲は、プロデューサー Tommy LiPuma の証言によればファーストテイクのまま採用された。このアルバムが Billboard 200 で1位に上り、のちに RIAA から3×プラチナ(米国300万枚)の認定を受ける。
『Breezin’』は、ジャズ・ギタリストが歌って売れた作品として語られることが多い。だがスタジオに入る前に決着をつけ、テープを回したら止めない――LiPuma の方法は、以後のスムース・ジャズと AOR のセッション文化に引き継がれていく。この記事は「3日間・5曲がファーストテイク」という一点を軸に本作を読み直す。
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1月6日から8日まで――スタジオにいた3日間
Warner Bros. 移籍第1作の基本トラックは、1976年1月6日から8日に Capitol Studios で録音された。エンジニアは Al Schmitt。LiPuma は後年、リハーサルを徹底したうえでスタジオに入り、6曲中5曲をファーストテイクで決めたと語っている。リズム・アレンジを紙に書くことはほとんどなく、バンドが「どう演るか」を事前に共有しておく――それが彼のプリプロダクション観だった。
リズム隊は Harvey Mason、Ralph MacDonald、Phil Upchurch、Stanley Banks、鍵盤は Ronnie Foster と Jorge Dalto。このうち Upchurch は、後述する Szabó 版「Breezin’」にも参加していた LiPuma の旧知の顔である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 録音 | 1976年1月6日〜8日 / Capitol Studios(ハリウッド) |
| リリース | 1976年3月19日 / Warner Bros. Records |
| プロデュース | Tommy LiPuma(アソシエイト:Noel Newbolt) |
| 録音・ミックス | Al Schmitt(アシスタント:Don Henderson) |
| マスタリング | Doug Sax / The Mastering Lab(ハリウッド) |
| 編曲・指揮 | Claus Ogerman(弦はミュンヘンで録音) |
| 演奏 | George Benson (g, vo) / Jorge Dalto (p, clavinet) / Ronnie Foster (el-p, Minimoog) / Phil Upchurch (rhythm g, b) / Stanley Banks (b) / Harvey Mason (ds) / Ralph MacDonald (perc) / Bennie Maupin (fl) |
| 収録時間 | 38分42秒(6曲) |
Keystone Korner で聞いた声――LiPuma が録りたかったもの
LiPuma と Benson の接点は、Warner との契約より前にさかのぼる。LiPuma は1973年ごろ、サンフランシスコのジャズ・クラブ Keystone Korner で Benson のステージを見て、ギターではなく歌に驚いたという。CTI 時代のプロデューサー Creed Taylor のもとでは「次の Wes Montgomery」として扱われ、ヴォーカルは前面に出ていなかった。
Blue Thumb 時代の盟友 Bob Krasnow が Warner Bros. から Benson 獲得の相談を持ちかけると、LiPuma は即座に引き受けた。最初の打ち合わせで Benson が「これまであまり歌ってこなかった」と口にしても、LiPuma は Keystone Korner の記憶を根拠に歌を入れる方向を押した。選曲は LiPuma が一手に引き受け、Leon Russell の「This Masquerade」を中心曲に据える案も彼から出ている。LiPuma は Benson に「いい曲なんだ」と説いてこの曲を通した。
本作は、ある一夜の歌を覚えていたプロデューサーが、3年越しでそれをレコードに定着させた記録である。
同じプロデューサーが5年を隔てて2度録った曲
タイトル曲「Breezin’」は Bobby Womack の作曲で、初録音は1970年12月、ハンガリー出身のギタリスト Gábor Szabó による。Womack 本人がリズム・ギターで参加し、Blue Thumb からのアルバム『High Contrast』(1971年)に収録、シングルとしても出た。このときのプロデューサーが、ほかならぬ Tommy LiPuma だった。
Szabó 版のシングルは Billboard のソウル・チャートで43位にとどまる。5年後、LiPuma は同じ曲を Phil Upchurch を含む布陣で Benson のために録り直す。3分11秒の曲は5分40秒に伸び、Claus Ogerman の弦が加わり、Hot 100 で63位に入った。第19回 Grammy で Best Pop Instrumental Performance を獲得したのも、この曲を含む本作である。
| Gábor Szabó 版 | George Benson 版 | |
|---|---|---|
| 録音 | 1970年12月 | 1976年1月 |
| 収録アルバム | 『High Contrast』(Blue Thumb, 1971) | 『Breezin’』(Warner Bros., 1976) |
| プロデューサー | Tommy LiPuma | Tommy LiPuma |
| 共通の演奏者 | Phil Upchurch (b) | Phil Upchurch (rhythm g, b) |
| 長さ(アルバム) | 3:11 | 5:40 |
| 主なチャート | Best Selling Soul Singles 43位 | Hot 100 63位 |
プロデューサーが自分の過去の仕事をやり直し、2度目で当てる。『Breezin’』というタイトルは、LiPuma にとって再挑戦の名前でもあった。
8分3秒を3分17秒に切る――「This Masquerade」の二つの顔
アルバム版の「This Masquerade」は8分3秒ある。ヴォーカル、Jorge Dalto のピアノ・ソロ、Benson がギターのフレーズを声でなぞるスキャットのユニゾンが順に置かれ、ジャズのセットのように進む。1976年4月のシングルでは3分17秒まで詰められた。Benson にとって初のシングルである。
結果は Hot 100 で10位、R&B チャートで3位、Adult Contemporary で6位。1977年2月の第19回 Grammy では Record of the Year を LiPuma と Benson が受け取り、Song of the Year(Leon Russell)と Best Pop Vocal Performance, Male(Benson)にもノミネートされた。Leon Russell が1972年の『Carney』で発表し、Carpenters も録音していたこの曲で、米国のチャートに入ったのは Benson 版だけである。
8分版は演奏の全体であり、3分版はそれを市場に通すための編集である。両方が存在することで、このアルバムはジャズの棚とポップの棚の両方に置かれた。
ハリウッドの3日間と、ミュンヘンの弦
本作の音を「スムース」にしている最大の要素、Claus Ogerman の弦は、ハリウッドの3日間には含まれていない。Ogerman が書いたアレンジは、LiPuma と Al Schmitt がミュンヘンに渡って録音し、リズム・トラックに重ねられた。Ogerman は Antonio Carlos Jobim や Bill Evans との仕事で知られる編曲家である。
Schmitt は本作で Best Engineered Album, Non-Classical を受賞した。ファーストテイクのリズム隊の上に別の街で録った弦を乗せ、「即興」と「設計」を一枚に縫い合わせたのが、この受賞の実体である。
数字で残ったもの
| 項目 | 記録 |
|---|---|
| Billboard 200 | 1位 |
| Billboard Top R&B Albums | 1位 |
| Billboard Jazz Albums | 1位 |
| 1976年 年間チャート | Billboard 200 で19位 / R&B アルバム4位 |
| RIAA 認定 | 3×マルチ・プラチナ(300万枚) |
| 「This Masquerade」 | Hot 100 10位 / R&B 3位 / Adult Contemporary 6位 |
| 「Breezin’」 | Hot 100 63位 |
| Grammy 受賞(第19回) | Record of the Year / Best Pop Instrumental Performance / Best Engineered Album, Non-Classical |
ポップ、R&B、ジャズの3つのアルバム・チャートすべてで1位。同じ1976年に Boz Scaggs『Silk Degrees』 がロック側から R&B のセッション陣を取り込んで成功したのと、ちょうど鏡合わせになっている。
「C」と「3.5」――評価が割れた理由
Robert Christgau は1976年6月の The Village Voice で本作に「C」を付け、大半を「mush」と切り捨てた。AllMusic の Richard S. Ginell は5点中3.5点で、「突破というより過渡期のアルバム」と書き、Benson が「もっとも代表的でない1曲」(This Masquerade)によってスターになったと指摘した。
どちらの評も、ファーストテイク主体の制作を知ったうえで読むと腑に落ちる。ロック批評には磨き込みの不足に見え、ジャズ批評には歌よりギターの比重が大きい実態が見える。本作は「歌手 Benson」の誕生として記憶されているが、6曲中5曲はインストである。
ファーストテイクの痕跡を探す――どこから聴くか
Six to Four(Phil Upchurch 作、5:06)は Ronnie Foster の Minimoog ソロを含むジャズ・ファンクで、バンドの素の勢いがいちばん強く出ている。B面の Affirmation(José Feliciano 作、7:01)は、テイクを重ねていない演奏の推進力がわかりやすい。
So This Is Love?(Benson 作、7:03)は Foster のエレクトリック・ピアノ・ソロを挟むバラードで、Ogerman の弦とリズム隊の縫い目を確かめるのに向く。クロージングの Lady(Ronnie Foster 作、5:49)は、バンドのキーボード奏者の曲で締める配置で、このアルバムが「バンドの記録」であることを最後に念押ししている。
本作の骨格を知りたいなら「Six to Four」と「Affirmation」を続けて聴くのを勧めたい。その後で Larry Carlton『Larry Carlton』 や AOR 名盤100選 に並ぶ作品を聴けば、3日間で録られたこのアルバムが後続に何を渡したかが見えてくる。
参考資料
- Wikipedia — Breezin’ (George Benson album)(録音日・クレジット・チャート・Grammy)
- AllMusic — George Benson『Breezin’』(Richard S. Ginell によるレビュー)
- Jerry Jazz Musician — Tommy LiPuma on Breezin’(制作証言)
- Wikipedia — Breezin’ (song)(Gábor Szabó 版との比較)
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