39分03秒に入らなかった1曲──Fleetwood Mac『Rumours』(1977)

Rumours - Fleetwood Mac レビュー
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Fleetwood Mac『Rumours』の収録時間は39分03秒である。1977年2月4日に Warner Bros. から出たこの11曲は、Billboard 200 で通算31週の1位、4枚のシングルすべてが Hot 100 トップ10、1978年2月のグラミーで Album of the Year——。だがこの記事は、その39分03秒に入らなかった1曲から始めたい。

Stevie Nicks が書いた「Silver Springs」は、1976年の Sausalito のセッションで録音され、共同プロデューサー Ken Caillat が「傑作」と呼んだ曲だった。それでもアルバムからは外され、同年12月20日発売のシングル「Go Your Own Way」のB面に回された。理由は歌詞でも出来でもなく、「長すぎてアルバムに収まらない」——それだけである。

この曲は1992年のボックス・セットで表に出て、1997年のライブ盤『The Dance』でグラミーにノミネートされ、2004年のリマスターでようやく『Rumours』の曲順の中に置かれた。外された1曲が20年以上かけて帰ってくる道のりを追うと、このアルバムの作られ方が裏側から見えてくる。

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Fleetwood Mac - Dreams (Official Music Video)
目次

「全曲がシングル候補」という方針が生んだ落選

Fleetwood Mac と Caillat、Richard Dashut が本作で共有していた方針は、「filler(埋め草)のない、全曲がシングルになり得る1枚」だった。

この方針は削る判断を伴う。LP の片面に収められる時間には限りがあり、Nicks の持ち込んだ「Silver Springs」は、テンポが遅く長さもあった。Caillat は同じく Nicks のスロー・ナンバー「Gold Dust Woman」と差し替える案を本人に示したが採られず、Nicks の再三の反対にもかかわらず「Silver Springs」は落ちた——と Caillat の著書『Making Rumours』にある。

1976年12月20日、Lindsey Buckingham 作の「Go Your Own Way」がアルバムに先行してシングル・カットされ、その裏面に「Silver Springs」(B面版 4:29) が収められた。同じ7インチの表裏に、Buckingham と Nicks それぞれの曲が並ぶことになった。

Sausalito の2か月と、すり減ったマスターテープ

録音は1976年2月、Sausalito の Record Plant で始まり、バンドは2か月以上ここに滞在した。Christine McVie の弾き語り「Songbird」だけは、Caillat が「ホールの残響が要る」と判断し、湾の向こうの Berkeley にある Zellerbach Auditorium で徹夜で録音された。

Mick Fleetwood が組んだ10日間の短いツアーを挟んで、作業は Los Angeles の Wally Heider Studio 3 などに移り、オーバーダブとミックスが積み重ねられていった。

ここで事故が起きる。Sausalito で録ったマスターテープが、繰り返しの再生とオーバーダブで物理的に摩耗し、キックとスネアの音が「死んだ」状態になっていたのだ。当初9月に予定されていた発売は延期され、秋の全米ツアーはチケット完売のままキャンセルされた。

修復のために呼ばれた専門家は、可変速オシレーター(vari-speed oscillator)を使い、左耳に摩耗したマスター、右耳に無傷のセーフティ・コピーを流し、スネアとハイハットのタイミングを頼りに2本のテープの速度を手作業で合わせていった。入らなかった1曲の裏で、入った11曲のほうも、ぎりぎりのところで完成に漕ぎつけていた。

剃刀で貼り合わせた「The Chain」——5人共作の唯一の曲

『Rumours』でメンバー5人全員がクレジットされている曲は「The Chain」だけである。この曲は、Sausalito でテープを文字どおり剃刀で切って貼り合わせながら組み立てられた。

  • 冒頭部:Christine McVie のデモ「Keep Me There」(1976年2月2日初録音)と、Nicks が別の曲に書いていた歌詞を再構成
  • イントロ:Buckingham が Buckingham Nicks 時代のデュエット「Lola (My Love)」の導入部を流用
  • 終盤:最初のセッションで John McVie が3回目のテイクで弾いたベースの進行を核に、フレットレス・ベースで再録
  • タイトル:Buckingham いわく「断片の寄せ集めだったから」

John McVie のベースが前に出て、テンポが上がっていく終盤の展開は、1978年から1996年まで、そして2009年から2015年まで、BBC の F1 中継のテーマとして使われた。英国では BPI から6×プラチナの認定を受けており、「The Chain」こそが『Rumours』の顔だと言っても大げさではない。

31週、4枚、2,000万——数字で見る到達点

『Rumours』は Billboard 200 で31週(非連続)の1位を記録し、バンド初の全英1位アルバムにもなった。RIAA 認定は20×プラチナ(Diamond)、BPI は14×プラチナ。2023年時点で全世界4,000万枚以上、全英チャートのトップ100には通算1,000週以上ランクインしている。

項目記録備考
『Rumours』(アルバム)Billboard 200 1位(通算31週)全英・豪・加・NZ でも1位
Go Your Own WayHot 100 10位1976年12月20日発売 / B面「Silver Springs」
DreamsHot 100 1位バンド唯一の全米1位シングル
Don’t StopHot 100 3位Christine McVie 作
You Make Loving FunHot 100 9位1977年9月シングル
RIAA 認定20×プラチナ(Diamond)米国内出荷2,000万枚
グラミーAlbum of the Year第20回(1978年2月)

39分03秒に収まった側の曲たち

「Silver Springs」の視点から本編を眺めると、いくつかの曲が違って聴こえる。

Go Your Own Way

「Silver Springs」を裏面に載せてアルバムに先駆けて世に出た曲。Buckingham のアコースティック・ストロークと Mick Fleetwood のドラムがぶつかり合う、本作でもっとも推進力のある曲。Hot 100 で10位。

Dreams

Nicks 作。Sausalito の Record Plant で録音され、Christine McVie がヴィブラフォンを重ねている。2つのコードを行き来するだけの構造の上で、Nicks の声と Buckingham のギターが対話する。バンド唯一の Hot 100 1位で、2020年には TikTok 経由で43年ぶりにアルバムを Billboard 200 トップ10へ押し戻した。

Gold Dust Woman

Caillat が「Silver Springs」との差し替え候補に挙げた、もう1つの Nicks のスロー・ナンバー。結果として残ったのはこちらだった。Mick Fleetwood のエレクトリック・ハープシコードとドブロの響きが重なり、アルバムは4分51秒の長い残響で閉じられる。差し替えが実現していたら、幕切れはまったく別の表情になっていたはずだ。

Don’t Stop / You Make Loving Fun / Songbird

Christine McVie の3曲はアルバムの明るい側を支える。「Don’t Stop」は Hot 100 3位、「You Make Loving Fun」は9位。A面を閉じる「Songbird」の静けさは、B面に回された「Silver Springs」の不在を埋めているようにも聴こえる。

1992年、1997年、2004年——「Silver Springs」の帰り道

「Silver Springs」は、1992年のボックス・セット『25 Years – The Chain』で初めてアルバム形態に収められた。この収録をめぐる対立が、1991年の Nicks の一時離脱の一因になった。

1997年5月23日、Burbank の Warner Bros. Studios で収録されたライブ盤『The Dance』は、同年8月19日に発売され、『Mirage』(1982) 以来15年ぶりに Billboard 200 の1位に就いた。RIAA 認定は5×プラチナ。ここでの「Silver Springs」(5:41) は7月22日にラジオ・シングルとして先行し、Hot 100 Airplay で41位、翌1998年のグラミーで Best Pop Performance by a Duo or Group with Vocals にノミネートされた。同じ夜の「The Chain」もロック部門で候補になった。B面へ回された曲と剃刀で貼り合わせた曲が、20年後に並んでグラミー候補になったことになる。

そして2004年、『Rumours』のリマスター盤が出たとき、「Silver Springs」は未発表の4分47秒のヴァージョンとして、「Songbird」と「The Chain」の間——つまり LP でいえばA面とB面の継ぎ目——に置かれた。

年出来事形態
1976年12月「Go Your Own Way」B面として発売7インチ・シングル(4:29)
1992年『25 Years – The Chain』に初収録ボックス・セット
1997年『The Dance』ライブ版、ラジオ・シングル化Hot 100 Airplay 41位
1998年グラミー Best Pop Performance by a Duo or Group with Vocals ノミネート第40回グラミー
2004年『Rumours』リマスター盤に4:47版を追加収録Songbird と The Chain の間

AOR の棚に『Rumours』を置くなら

アコースティックとエレクトリックの配分、3人の声を重ねるコーラス、ドラムの輪郭を最後まで守ろうとした修復作業——「無理なく聴けて、細部まで作り込まれている」という西海岸ポップの基準は、この1枚でかなりの部分が決まった。

同じ時期のカリフォルニアで長期録音を完走した作品として、Eagles『The Long Run』(1979) と Steely Dan『Gaucho』(1980) は併せて聴く価値がある。AOR 名盤100選 の中でも、「入らなかった曲」がこれほど語られるアルバムはほかにない。

次作『Tusk』(1979) は2枚組の実験作で Billboard 200 4位、『Mirage』(1982) で1位に返り咲き、『Tango in the Night』(1987) がこの5人編成での最後のスタジオ作となる。

最後に聴き方をひとつ。2004年以降の盤で「Songbird」→「Silver Springs」→「The Chain」と聴いたあと、オリジナルの11曲版で「Songbird」から「The Chain」へ直接つなぐ。4分47秒の有無でアルバムの折り返しの重さがどう変わるか——それが「収まらなかった1曲」の意味を確かめるいちばん手早い方法である。

参考資料

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この記事を書いた人

AORBreeze運営者。Boz Scaggs、Steely Dan、TOTO、Bobby Caldwellを原体験に、70〜80年代のAOR・ヨットロック・シティポップ・フュージョンを聴き続けているリスナー。David FosterやJay Graydonら西海岸セッション人脈に注目し、参加ミュージシャン視点でアルバムを掘り下げています。

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