全米30位、全英4位への11年──Bill Withers『Menagerie』(1977)

Menagerie - Bill Withers レビュー
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1978年の初め、Bill Withers の「Lovely Day」は Billboard Hot 100 で30位まで上がって止まった。同じ月、大西洋の向こうの UK Singles Chart では7位。そして10年半後の1988年9月、オランダの DJ Ben Liebrand によるリミックス「Sunshine Mix」が、同じ曲をイギリスで4位まで押し上げる。この曲のチャート上の頂点は、生まれた国ではなく海の向こうで、しかも発売から11年経ってから訪れた。

『Menagerie』は1977年10月29日に Columbia Records から出た Withers の6作目のスタジオ・アルバムである。米国では Billboard 200 で39位、R&B アルバム・チャートで16位、翌年5月に RIAA ゴールド——堅実ではあるが、『Still Bill』(1972) の頃の勢いには及ばない数字だ。ところがイギリスでは27位に達し、彼のスタジオ作としては最高位を記録した。アルバムもシングルも、アメリカよりイギリスで長く生きた。

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Bill Withers - Lovely Day (Official Audio)
目次

1978年1月——30位と7位、ふたつの冬

「Lovely Day」は1977年12月にシングルとして切られ、年明けの Hot 100 で30位、R&B シングル・チャートで6位に到達した。Hot 100 での在位は12週。「Lean on Me」(1972年、1位) や「Use Me」(同年、2位) を持つ Withers にとっては、控えめな成績である。

イギリスでは違った。Official Charts の記録によれば「Lovely Day」は1978年1月14日付でチャート入りし、8週在位して7位に達している。それまでの Withers の UK 最高位は「Lean on Me」の18位だから、大幅な更新だ。翌2月11日付には『Menagerie』本体も UK Albums Chart で27位に入った。1978年の時点で既に、このアルバムの重心はわずかに東へ傾いていた。

項目米国英国
『Menagerie』(アルバム)Billboard 200 39位 / R&B 16位UK Albums 27位(1978年2月11日付、4週)
「Lovely Day」(1977〜78)Hot 100 30位(12週) / R&B 6位UK Singles 7位(1978年1月14日付、8週)
「Lovely Day」(1987年再発)—92位(1週)
「Lovely Day (Sunshine Mix)」(1988)—UK Singles 4位(1988年9月10日付、9週)
RIAA 認定アルバム: ゴールド(1978年5月18日) / 「Lovely Day」: 2×プラチナ(2024年6月)—

1988年9月——Ben Liebrand が持ち込んだ「Sunshine Mix」

話は10年飛ぶ。1987年7月、CBS はイギリスで「Lovely Day」を再発するが、これは92位に1週入っただけで消えた。転機は翌年である。オランダの DJ/リミキサー Ben Liebrand が、原曲の Withers のヴォーカルとバンド演奏を活かしたまま、ビートを80年代後半のダンスフロア向けに組み直した「Sunshine Mix」を制作。CBS はこれを7インチ、12インチ、CD シングルで発売し、B面には1977年のオリジナル・ヴァージョンを収めた。

結果は1988年9月10日付で UK Singles Chart 入り、9週在位で4位。1978年の7位を、同じ曲が11年後に上回った。つまり「Lovely Day」はイギリスで、1978年と1988年、それぞれ別のリスナー層に二度届いた曲である。アメリカの Hot 100 に二度目のチャート・インはなかった。

Skip Scarborough という共作者

「Lovely Day」の作曲クレジットは Bill Withers と Skip Scarborough の連名である。Scarborough は前年に L.T.D. の「Love Ballad」(1976) を書き、後に Anita Baker の「Giving You the Best That I Got」(1988) でグラミーの Best R&B Song を獲得することになるソングライターだ。ロマンティックなバラードの書き手として知られる人物で、彼が曲の骨格を用意し、Withers が言葉を乗せた。

Withers は後年、この曲の楽天的な気分は Scarborough 本人の性格から来ていると語っている。穏やかで、毎日を「lovely day」として過ごすような人だった、と。「Ain’t No Sunshine」も「Use Me」も単独作である Withers にとって、共作者の人柄がそのまま主題になった「Lovely Day」は、例外的な成り立ちの曲だ。

同じ Withers/Scarborough のクレジットは、アルバムを締めくくる「Let Me Be the One You Need」にも付いている。つまり『Menagerie』は、A面の頭とB面の最後を、同じ二人の共作で挟み込んだ構成になっている。

18秒の一音

「Lovely Day」を有名にしたもう一つの要素は、曲の終盤で Withers が一つの音を18秒にわたって伸ばし続けることだ。複数の資料が「全米トップ40ヒットとしては最長」としている(ギネス認定という記述は一次資料で確認できないため書かない)。

この一音が効いているのは、その前後があまりに穏やかだからだ。Clarence McDonald のキーボード、Ray Parker Jr. のカッティング、Russ Kunkel のドラム、Jerry Knight のベース、Ralph MacDonald のパーカッション——伴奏は終始、歌の後ろで揺れているだけで前に出てこない。その上で声だけが動かなくなる18秒は、技巧の誇示というより、曲の気分を引き延ばした時間に聞こえる。

プロデューサーが4人いる理由——「Menagerie」という題名

『Menagerie』とは「雑多なものの集まり」を指す言葉で、この題名はアルバムの作られ方を正直に説明している。全9曲のプロデュースは Withers 自身が全曲に名を連ねたうえで、曲ごとに異なる共同プロデューサーが付く。1・4・6・7・9曲目は Clarence McDonald、2・3・5曲目は Keni Burke、8曲目は Clifford Coulter。

McDonald は LA のキーボーディスト/アレンジャーで、「Lovely Day」の編曲も彼の手による。Keni Burke は The Five Stairsteps のメンバーだったベーシストで、本作では演奏にも加わっている。Coulter は「Wintertime」の作者でもあるキーボーディストだ。ホーンとストリングスの編曲の大半は、Motown で数々の名曲を手がけた Paul Riser が担当した。録音は Record Plant(ロサンゼルス)と A&R Studios、エンジニアは Bob Merritt、マスタリングは Bob Ludwig。

Sussex 時代の飾りの少ない音から、Columbia 移籍後の『Making Music』(1975)、『Naked & Warm』(1976) を経て、本作ではプロデューサーとアレンジャーを曲ごとに使い分ける LA のセッション文化に近い作り方へ踏み込んでいる。Robert Christgau がこのアルバムを、それまでの二つのスタイルの「正直な妥協」であり「彼の最も大きなアルバム」と評したのは、この折衷を指してのことだろう。

#曲名作者共同プロデュース
1Lovely DayB. Withers / S. ScarboroughClarence McDonald
2I Want to Spend the NightB. WithersKeni Burke
3Lovely Night for DancingB. WithersKeni Burke
4Then You Smile at MeC. McDonaldClarence McDonald
5She Wants To (Get On Down)L. NashKeni Burke
6It Ain’t Because of Me BabyB. WithersClarence McDonald
7Tender ThingsB. WithersClarence McDonald
8WintertimeC. CoulterClifford Coulter
9Let Me Be the One You NeedB. Withers / S. ScarboroughClarence McDonald

「Lovely Day」の外側にある曲

プロデューサーの違いは、そのまま曲の性格の違いとして現れている。

Lovely Night for Dancing

Keni Burke がプロデュースした3曲のうち、最も長い1曲。タイトルが示すとおり「Lovely Day」の夜版として置かれた曲で、1978年に「I Want to Spend the Night」をカップリングに第2弾シングルとして切られた。Burke 担当曲は総じてベースが前に出ており、McDonald 担当曲とは手触りが違う。

Then You Smile at Me

Clarence McDonald 自身の作曲。コードの動きが Withers の曲より複雑で、アルバムの中でいちばんジャズ寄りにある。編曲家が作曲家としても関わっていることが、このアルバムの「雑多さ」の中身だ。

Wintertime / Let Me Be the One You Need

Clifford Coulter が書きプロデュースした「Wintertime」は、「Lovely Day」と同じアルバムに冬を持ち込む対照の1曲。その後に Scarborough との2曲目の共作「Let Me Be the One You Need」が来て幕を閉じる。Scarborough のバラードの型が Withers の声と最もよく噛み合った曲で、ここで終えるのは正しい判断だ。

1992年、1999年、2024年——三度目以降の人生

イギリスでの二度のヒットの後も、「Lovely Day」は繰り返し表に出てくる。1992年には S.O.U.L. S.Y.S.T.E.M. がこの曲をもとにした「It’s Gonna Be a Lovely Day」を映画『The Bodyguard』のサウンドトラックに提供し、Hot 100 で34位、UK で17位を記録した。1999年には Gap のカーキ・パンツの CM に使われ、アメリカでの認知が大きく広がった。以後も『127 Hours』(2010) など映像作品での使用が続く。

そして2024年6月、RIAA は「Lovely Day」を2×プラチナ(200万ユニット相当)に認定した。1978年の Hot 100 30位の曲が、46年後に累計で200万を超えた。Withers にとっておよそ25年ぶりの RIAA 認定更新だった。順位だけ見れば控えめな曲が、時間を横軸に取ると彼のカタログで最も長く伸び続けている。

『Menagerie』をどう聴くか

まず「Lovely Day」から「Then You Smile at Me」へ続けて McDonald 担当曲の質感を掴み、次に「Lovely Night for Dancing」で Burke の側へ移るのがいい。同じ頃の LA で作られた Boz Scaggs『Silk Degrees』 の洗練とは出発点が違うが、Withers はコードを増やさずに同じ「大人の音楽」の領域へ届いている。Michael McDonald『If That’s What It Takes』 のような80年代の LA ソウル系 AOR と並べると、本作が先に敷いた土台が見える。AOR 名盤100選 も参照されたい。

参考資料

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本記事は、AORBreeze(aorbreeze.com)が独自に執筆したオリジナルレビューです。本記事中の Amazon/music.jp へのリンクには、アフィリエイトプログラムによる紹介を含みます。

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この記事を書いた人

AORBreeze運営者。Boz Scaggs、Steely Dan、TOTO、Bobby Caldwellを原体験に、70〜80年代のAOR・ヨットロック・シティポップ・フュージョンを聴き続けているリスナー。David FosterやJay Graydonら西海岸セッション人脈に注目し、参加ミュージシャン視点でアルバムを掘り下げています。

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