お知らせ内容をここに入力できます。 詳しくはこちら

【シティポップ名盤】大瀧詠一『A LONG VACATION』を聴く|フィル・スペクターと西海岸が溶け合った1981年の到達点

青い空と海 夏のリゾート シティポップのイメージ
  • URLをコピーしました!

シティポップの「顔」を一枚だけ選べと言われたら、多くの人が永井博の描くあのプールサイドのイラストを思い浮かべるだろう。青い空、無人のリゾート、ひんやりとした水面——大瀧詠一『A LONG VACATION』(1981年3月21日リリース)は、音楽だけでなくシティポップの「視覚イメージ」までも決定づけた記念碑的な一枚だ。オリコン史上初のミリオンセラーを達成した、大瀧詠一にとって最大のヒット作でもある。

大滝詠一 - 君は天然色 (Official Music Video)

本サイトはこれまでアメリカのAOR名盤を追いかけてきたが、この一枚は「アメリカの洗練が東京でどう花開いたか」を最も雄弁に語る作品だ。シティポップの源流としてのAORという視点から、改めて聴き直してみたい。

目次

どんなアルバムか

『A LONG VACATION』(通称ロンバケ)は、はっぴいえんど解散後の大瀧詠一が、自身のレーベル「ナイアガラ」を経て放った傑作。作詞のほとんどを盟友・松本隆が手がけ、夏・海・喪失といったモチーフを、どこまでも澄んだサウンドの上に乗せた。発売直後よりもその後の長いロングセールスで国民的名盤へと育っていった点も、この作品の特異なところだ。

AORとのつながり──スペクターと西海岸の二重写し

大瀧詠一は、誰よりも深くアメリカン・ポップを研究した人だった。本作の土台にあるのはフィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」——音を幾重にも積み上げて壁のような響きをつくる手法だ。だがそこに、彼は1970年代の西海岸AORがもつ「抜けの良さ」と、ブライアン・ウィルソン譲りの多層コーラスを重ねた。

つまりロンバケの音は、古典的なスペクター・サウンドと、同時代のAORの精度が二重写しになっている。これは本サイトで紹介してきたボズ・スキャッグス『Silk Degrees』TOTO『TOTO IV』が体現したスタジオ至上主義と、地続きの感性だ。違うのは、その精度が「日本の夏の感傷」を表現するために使われたこと。源流はアメリカでも、描いている風景は完全に日本のものだった。

聴きどころ

冒頭を飾る「君は天然色」は、邦楽ポップスの一つの頂点とされる名曲だ。きらめくウォール・オブ・サウンドの多幸感に満ちているが、松本隆の詞は実は色を失った悲しみを歌っている——だからこそ「天然色」という言葉が逆説的に胸を打つ。明るさと喪失が同居するこの感覚こそ、のちにシティポップ全体を特徴づける情緒そのものだ。

アルバム後半の「さらばシベリア鉄道」へと至る流れも見事で、A面の陽光からB面の翳りへと、季節が移ろうように構成されている。スティーリー・ダン『Aja』のように、聴き込むほど新しいディテールが顔を出す情報量の多さも、ロンバケの大きな魅力だ。

永井博のジャケットが決めた「視覚のシティポップ」

この作品を語るうえで、永井博によるジャケット・イラストは外せない。青空、ヤシの木、無人のプール——人の気配を消した明るいリゾートの風景は、音楽以上に強く「シティポップとはこういう気分だ」という視覚言語を確立してしまった。現在のリバイバルで多用される、あの淡くノスタルジックなビジュアルの源流は、間違いなくここにある。音と絵がセットで一つのジャンルの空気を定義した、稀有な例と言える。

私的な視点

ロンバケを「おしゃれな夏のBGM」として流すのもいい。だが、その一音一音にスペクターの執念と西海岸AORの精度が織り込まれていると知ると、同じアルバムが急に立体的に響き始める。アメリカの設計図を、日本語の感傷で塗り替える——その翻訳の妙を味わえる点で、これはAORリスナーにこそ刺さる一枚だ。

あわせて読みたい

試聴:Spotify / Apple Music / Amazon Music などで配信中。※本記事には一部アフィリエイトリンクを含みます。

🎵 AORBreeze メルマガ

無料登録特典:「AOR入門 隠れ名盤30選」PDFをプレゼント。毎週金曜の夜、編集部が選ぶ「今週の1枚」をお届けします。

登録後すぐに特典PDFのDLリンクをお送りします。配信停止はいつでもメール下部から可能です。

青い空と海 夏のリゾート シティポップのイメージ

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次