足りなかったのはロック──Bryan Adams『Reckless』(1984)

Reckless - Bryan Adams レビュー
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1984年8月、Bryan Adams は4作目のアルバムをいったん完成させていた。ヴァンクーヴァーの Little Mountain Sound で3月から録りためた9曲に、ニューヨークの Power Station でヴォーカルを重ね、あとはミックスを詰めるだけ——そのはずだった。ところが、試聴のためニューヨークに呼んだマネージャーの Bruce Allen は、一通り聴き終えて三語しか口にしなかった。「Where’s the rock?」(ロックはどこにある?)。

Adams はこの一言が「すべてを変えた」と振り返っている。翌日には Jim Vallance のいるヴァンクーヴァーへ戻り、「One Night Love Affair」と「Summer of ’69」を録り直し、「Kids Wanna Rock」を一から書いた。アルバム『Reckless』は同じ8月のうちに改めて完成し、11月5日——Adams の25歳の誕生日——に A&M Records から発売される。

「完成していた9曲」に何が足りず、差し替えられた3曲が全米1位と1,200万枚にどう結びついたのか——それを軸に『Reckless』を聴き直す。

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Bryan Adams - Run To You (Official Video)
目次

三語の判定——1984年8月、Power Station の試聴室

制作は前作『Cuts Like a Knife』(1983) と同じく Adams と Bob Clearmountain の共同プロデュース。Clearmountain はエンジニアとミックスも兼ね、Vallance がアソシエイト・プロデューサーに付いた。1984年3月からのヴァンクーヴァー録音では、ツアー・バンドの Keith Scott(ギター)、Dave Taylor(ベース)、Tommy Mandel(キーボード)にセッション・ドラマーの Mickey Curry を加えた編成が、ほぼ一発録りに近い形で演奏している。

問題は、その9曲が「悪くなかった」ことにある。だからこそ Allen の三語は効いた。彼が指摘したのは個々の曲の出来ではなく、アルバム全体の重心——バラードとミドル・テンポに寄りすぎて、ロック・ラジオの聴き手を引き留める曲が足りないという点だった。Adams はこの判定をその場で受け入れている。

差し替えられた2曲と、書き下ろされた1曲

ヴァンクーヴァーに戻った Adams と Vallance が手を付けたのは3曲。ここで注目したいのは、この3曲のドラムだけが Mickey Curry ではなく Pat Steward の演奏であることだ。アルバムのクレジットを見ると、Steward が叩いているのは1曲目「One Night Love Affair」、6曲目「Summer of ’69」、7曲目「Kids Wanna Rock」——つまり「Where’s the rock?」の後に録られた3曲と、きれいに一致する。

Summer of ’69——最も書き直された曲

本作でいちばん有名な曲は、いちばん難産だった曲でもある。作曲は1984年1月、West Vancouver。Vallance は当初「The Best Days of My Life」という題を提案していたが、二人は「Summer of ’69」のほうを選んだ。歌詞は何度も書き直され、まったく別の歌詞の版が捨てられ、一時は収録候補から外れかけた。Vallance と Adams 二人の少年時代の記憶を混ぜた曲で、どちらか一人の自伝ではない。

Allen の判定を受けた再録音で、この曲はテンポと音圧を上げた「ロック」として仕上げ直された。1984年11月のアルバム発売直後はロック系ラジオでかかる程度(Mainstream Rock 40位)だったが、1985年6月にシングル化されると Hot 100 で5位まで上がる。英国では4×プラチナに認定されている。

One Night Love Affair / Kids Wanna Rock

再録音された「One Night Love Affair」はアルバムの1曲目に置かれた。つまり『Reckless』は針を落とした瞬間から「Where’s the rock?」への回答で始まっている。1985年9月に5枚目のシングルとなり Hot 100 13位、Mainstream Rock 7位。

「Kids Wanna Rock」は2分36秒、本作最短。この曲だけはゼロから書き下ろされた。Adams、Scott、Steward に加え Clearmountain 本人まで「gang vocals」(掛け声コーラス)でクレジットされている。

最初からあった曲の出自——「Heaven」と「Run to You」

差し替え前の9曲のうち2曲は、そもそも『Reckless』のために書かれた曲ではなかった。

Heaven——1983年の映画から来たバラード

「Heaven」はアルバムで最初に録音された曲だが、もとは1983年の映画『A Night in Heaven』のために書かれ、同年サウンドトラック盤で先に世に出ていた。Adams が Journey の Frontiers ツアーで前座を務めていた時期に書かれ、「Faithfully」の影響下にある。録音は1983年6月、Power Station。ドラムは Journey の Steve Smith で、本編のバンドとは別の顔ぶれだ。

サントラ盤で既に出ていたうえに「軽すぎる」と見なされ、当初は『Reckless』への収録が予定されていなかった。それが1985年4月に3枚目のシングルとして切られると、6月22日付と29日付の Hot 100 で2週連続1位。Adams にとって初の全米ナンバーワンは、アルバム用に書かれたのではない、1年半前の「余りもの」だった。「Faithfully」については Journey『Frontiers』の記事も参照してほしい。

Run to You——2つのバンドに断られたリフ

先行シングル「Run to You」は1983年1月10日に書かれた曲で、Adams と Vallance は当初これを Blue Öyster Cult に提供するつもりだった。断られ、次に .38 Special にも断られている。1984年3月27日に Little Mountain でバンド全員に演奏させて、Adams は初めてこのリフの力に気づいたという。アルバムに入っているのはそのファースト・テイクである。1984年10月18日にシングル発売、Hot 100 6位、Mainstream Rock では4週1位。

Tina Turner が持ち込んだ声量

8曲目「It’s Only Love」は、もともとデュエットとして書かれた曲ではない。Adams が「特別なものにするには、もう一つの声が要る」と感じてデモを送った相手が、同じ1984年に『Private Dancer』で復活を遂げつつあった Tina Turner だった。Turner はデモを聴くなり録音を申し出たという。1985年10月に6枚目のシングルとなって Hot 100 15位、グラミー賞 Best Rock Vocal Performance by a Duo or Group にノミネートされ、1986年の MTV Video Music Awards で Best Stage Performance を受賞した。

この曲のドラムは Curry に戻っている。8月以降の3曲とそれ以前の曲とでリズム隊が違う——その差を意識すると、A面「Somebody」からB面「Summer of ’69」に移る瞬間の質感の変化が偶然でないとわかる。

6位で止まり、9か月後に1位へ——チャートの軌跡

『Reckless』は発売直後、1985年1月に Billboard 200 で6位まで上がったあと、トップ10から落ちている。流れを変えたのは「Heaven」の1位と「Summer of ’69」のトップ5で、アルバムは再び上昇に転じ、発売から9か月後の1985年8月10日付で1位に到達、2週間その座を守った。カナダでは1985年2月に1位、ニュージーランドでも1位、英国ではトップ10。シングル6枚はすべて Hot 100 のトップ20に入った。

シングル発売Hot 100Mainstream Rock備考
Run to You1984年10月18日6位1位(4週)先行シングル。英国11位
Somebody1985年1月11位1位英国35位
Heaven1985年4月9日1位(2週)9位(1984年2月、サントラ盤時)Adams 初の全米1位
Summer of ’691985年6月17日5位40位(1984年11月、アルバム・カット時)英国 4×プラチナ
One Night Love Affair1985年9月13位7位再録音版
It’s Only Love1985年10月15位—Tina Turner とのデュエット。英国29位

25歳の誕生日に出たアルバムが残した数字

RIAA の認定は5×プラチナ(米国500万枚)、英国 BPI は3×プラチナ(90万枚)。世界累計は2014年時点で1,200万枚で、Adams の作品では『Waking Up the Neighbours』(1991) に次ぐ2番目のセールスとなっている。そして本作は、カナダ国内で100万枚を超えて売れた最初のカナダ人アルバムであり、Music Canada の認定は11×プラチナ(110万枚)に達した。1985年の Juno Awards では Album of the Year を受賞している。

焼けた原盤と、自宅にあった控え——2008年から2014年

2008年6月、Universal Studios の敷地内で起きた火災で、本作のオリジナル・マスター・テープが失われた。ところが Adams の自宅にマスターのバックアップ・コピーが残っていることがわかり、それを元に2014年11月10日、発売30周年のリマスター版が制作された。ディスク1に未発表7曲、ディスク2に1985年4月20日ロンドン Hammersmith Odeon でのライブ音源(BBC Radio 1 収録)を収める。

項目内容
発売1984年11月5日 / A&M Records
録音1983年6月(Heaven)、1984年3月〜8月 / Little Mountain Sound Studios(ヴァンクーヴァー)、Power Station(ニューヨーク)
プロデュースBryan Adams, Bob Clearmountain(エンジニア・ミックス兼任)/アソシエイト・プロデューサー Jim Vallance
マスタリングBob Ludwig / Masterdisk(ニューヨーク)
バンドBryan Adams (vo, g) / Keith Scott (g) / Dave Taylor (b) / Tommy Mandel (key) / Mickey Curry (ds: 2, 3, 5, 8–10) / Pat Steward (ds: 1, 6, 7)
客演Tina Turner (vo: It’s Only Love) / Steve Smith (ds: Heaven) / Robert Sabino (key: Heaven) / Lou Gramm (backing vo: She’s Only Happy When She’s Dancin’)
収録時間全10曲 37:58

聴く順番の提案

「Where’s the rock?」を追体験するなら、まず「Heaven」と「Somebody」を続けて聴き、そのあとで「One Night Love Affair」「Summer of ’69」「Kids Wanna Rock」の3曲をまとめて聴いてほしい。前者が8月の試聴室で鳴っていた『Reckless』、後者がその後に足されたものだ。ドラムの鳴り方と曲の前のめり具合が、はっきり違って聞こえるはずだ。本作の位置づけは、AOR 名盤100選と、同じく映画発のヒットを持つ Survivor『Eye of the Tiger』の記事もあわせてどうぞ。

参考資料

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本記事は、AORBreeze(aorbreeze.com)が独自に執筆したオリジナルレビューです。本記事中の Amazon/music.jp へのリンクには、アフィリエイトプログラムによる紹介を含みます。

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この記事を書いた人

AORBreeze運営者。Boz Scaggs、Steely Dan、TOTO、Bobby Caldwellを原体験に、70〜80年代のAOR・ヨットロック・シティポップ・フュージョンを聴き続けているリスナー。David FosterやJay Graydonら西海岸セッション人脈に注目し、参加ミュージシャン視点でアルバムを掘り下げています。

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