シティポップの「夏」を一枚で表すなら、多くの人が山下達郎『FOR YOU』(1982年)を挙げるだろう。鈴木英人による、まばゆい原色のイラスト・ジャケット——青い海、ビーチ、強い陽射し——は、大瀧詠一『A LONG VACATION』と並んでシティポップの視覚イメージを決定づけた。そして中身は、達郎のスタジオ美学が頂点に達した、文句なしの代表作だ。
本サイトが追いかけてきたアメリカのAORと、この一枚がどう地続きなのか。シティポップの源流としてのAORの視点から見ていきたい。
どんなアルバムか
『FOR YOU』は山下達郎の6枚目のスタジオ・アルバムで、1982年1月21日にリリースされた。彼の最も売れたアルバムであり、現在もシティポップ・コレクターが探し求める一枚だ。冒頭を「SPARKLE」「MUSIC BOOK」が飾り、歌詞の多くは盟友・吉田美奈子が手がけている。RCA/AIR期の頂点と評される、隙のない作品だ。
AORとのつながり──西海岸の精度を「夏の多幸感」に注ぐ
『FOR YOU』を支えるのは、一流スタジオ・ミュージシャンによるタイトな演奏と、達郎の徹底した多重録音だ。これはTOTO『TOTO IV』に代表される西海岸AORの「寸分の狂いもないグルーヴ」と同じ思想に立っている。違うのは、その精度を達郎が日本の夏の多幸感を表現するために振り切ったこと。
冒頭の「SPARKLE」の、かき鳴らされるギター・リフが生む高揚感は、AORの洗練を一段ポップに突き抜けさせた瞬間だ。アメリカの設計図を借りながら、最終的に「これは達郎にしか作れない」音へ到達している。
鈴木英人のジャケットと「夏のシティポップ」
イラストレーター鈴木英人による、輪郭線のない明るい色面で描かれたジャケットは、永井博による『A LONG VACATION』のアートワークと並び、シティポップの「夏・海・リゾート」というビジュアル言語を確立した。音と絵が一体となって時代の空気を定義した点で、この二枚はシティポップ史の双璧と言っていい。
聴くには──サブスクにいない理由
ここで一点、知っておきたいことがある。山下達郎は一貫してサブスクリプション配信を解禁していない。彼の作品は「音は生で、パッケージで届ける」という信念のもとにある。つまり『FOR YOU』をSpotifyやApple Musicで聴くことはできず、CD・アナログレコード・ハイレゾ配信(ダウンロード購入)で手に入れる必要がある。一手間かかるが、それも含めて達郎の音楽体験だと考えると味わい深い。
私的な視点
サブスクで気軽に流せないからこそ、『FOR YOU』はじっくり一枚通して向き合う価値がある。AORの精度がこれほど多幸感に転化した例は珍しく、聴き終えるたびに「夏が一つ過ぎた」ような余韻が残る。源流のAORを知ったうえで聴くと、達郎が何を受け継ぎ、何を更新したのかがくっきり見えてくるはずだ。
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『FOR YOU』はサブスク非解禁。CD・アナログレコード・ハイレゾ配信などで入手可能です。※本記事には一部アフィリエイトリンクを含みます。歌詞・ジャケット画像は権利保護のため掲載していません。
